藤井聡太王位に伊藤匠二冠が挑戦する、伊藤園お~いお茶杯第67期王位戦七番勝負は、将棋界注目の対決となった。
「凄いラリーだ、いつまで続くんだ?」
控室に戻り、皆で検討する。「難しい……難しい……」と高野が何度も呟けば、「簡単じゃないよ」と青野が応じる。藤井は金を王手で打って上部に泳ぎ出した先手玉を引かせ、香を取って戦力を補充するが、ここで伊藤に手番が回った。角を追って、馬で桂を取ってから玉を早逃げさせたのが好手順だった。
そして香取りに桂を打った局面を見て、一同は「伊藤良し」と断言した。「いい手だなあ」「伊藤先生、強い!」と高野と國井が絶賛する。しかし藤井も粘る。じっと角を引いて手番を渡したのが好手。「よく辛抱しましたね」と高野がいえば、「凄いラリーだ、いつまで続くんだ?」と國井は目を爛々と輝かせる。両者とも残り時間は10分を切り、1分将棋が間近に迫る。
そしてクライマックス、43手目に自陣角を打って以来、一貫して攻めの要として大切に運用してきた馬を、伊藤は金と差し違えた! 控室に再びどよめきが走る。「ひえー、どうしてここで馬を切れるんですか。2日制のこの土壇場で、その手が見えるんですか」と絶句する高野。「藤井先生も伊藤先生も、終盤が強すぎて怖いです」と國井も舌を巻く。
だが、その後の局面も極めて難解で、後手玉に詰めろがかかりにくい。先手玉も安全ではないので駒を渡しにくいのだ。やがて伊藤が2筋に歩を合わせた。飛車を縦横に活用する狙いかと感心していると、國井がある駒を動かし、一同の顔色が変わった。
そして藤井が1分将棋に突入し、藤井が最も得意とする駒である「桂」をつかんだ。飛車取りに桂を端へ跳ねる。△1三桂! 國井が動かしたその手だ。控室が騒然となる。評価値を見ずとも、控室の空気でこれが逆転の一手だと誰もが悟った。
青野が「藤井さんは一瞬の隙を見逃さないですねえ」と感嘆の声を漏らす。「いやあ、いい将棋だ……全部が紙一重でしたね」と高野も息をのむ。飛車取りでありながら自玉の逃げ道を作る攻防手。藤井はこの対局で一度も使っていなかった桂馬を、土壇場の逆転劇として解き放ったのだ。




