「非常に頭の大きなクマだった」

 遺体には、側頭部と脇腹にひっかかれたような傷があった。

 妻は目撃したクマについて「非常に頭の大きなクマだった」と証言している。

 第二の現場は第一の現場から北に500メートルほどの旧牧草地である。

ADVERTISEMENT

写真はイメージ ©kinpouge/イメージマート

 これだけ近い場所で2日連続で死亡事故が起き、しかもどちらも食害されているという事実は極めて重大な意味を持つ。

 第二の事故が報じられた翌23日、米田は日本ツキノワグマ研究所のホームページにおいて、こう警鐘を鳴らしている。

〈1件目の死亡事故で遺体に食害があれば3件目の死亡事故が発生する可能性が大〉

 前述した通り、この時点では、第一の事故で遺体が食害されていたという情報は周知されていない。だが過去に日本で起きたツキノワグマによる食害事故12件(当時)を詳細に検証していた米田は、この十和田のケースがクマによる「連続食害事故」である可能性を見抜いていたのである。米田は当時を振り返って、こう述懐する。

「本来であれば、第一の事件で食害した加害グマを特定することを最優先すべきでした。ご遺体に付着した毛などからDNAを採取することで問題個体を特定し、駆除できていれば、それ以降、被害が広がるのを防げたかもしれない」

 2件目の事故の後、米田はフェリーを乗り継いで車で広島の自宅から十和田へと向かい、5月30日に現地入りしている。もともと十和田の生まれで、秋田県庁に勤めていた経験もある米田にとって、今回の事故現場は、十分な土地勘のある場所でもあったからだ。

 そして“3件目の死亡事故の可能性”という米田の予測は的中する。

(文中一部敬称略)

羆を撃つ

伊藤 秀倫

文藝春秋

2026年9月25日 発売

次の記事に続く 「5日間にわたって食害された」ベテランの山菜取り男性もクマに襲われ死亡→“即席の槍”でクマに応戦した50代男性の命運は…