ドングリの不作による「エサ不足」でクマが人里に降りてくることはよく知られている。しかし、近年は、「家の中にまで侵入する」「複数人でいても襲われる」といった、専門家でも説明が難しい異常なケースが目立つ。
ここでは、東京農工大学大学院農学研究院で教授を務める小池伸介氏の『クマは都心に現れるのか?』(扶桑社新書)の一部を抜粋。次なるフェーズに入った獣害の実態を紹介する。
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東北各県に集中するクマ被害
2025年の地域的特徴を見てみよう。以下表の都道府県別人身被害件数(12月末まで)を見ると、東北各県への集中は明らかである。秋田59件(被害者67人、死亡4人)、岩手37件(被害者38人、死亡5人)、山形12件(被害者12人)、福島21件(被害者24人)。これに対して、近畿では兵庫1件、京都2件、滋賀2件、奈良2件と桁が違う。2025年の特徴的な点は、この被害の北東北への地域的偏在である。秋田市では、駅前の千秋公園にもクマが出た。西日本にもクマはいるが、そちらの被害はほとんどない。なぜ、このような偏りが生じたのか。
理由の一つは、やはりクマの個体数そのものが東北地方に多いということだろう。秋田では2025年、おそらく数千頭が捕獲されているが、その何倍ものクマが山にいると推定される。人を警戒せず、集落の裏の蕎麦畑などで日常的に食べ物を得て、秋になると山と里を往き来するような生活をしているクマが一定程度いると考えることもできる。ただし、東北地方だけが特別というわけではない。実は、近畿地方も2024年は大量出没だった。多くの人は知らないだろうが、兵庫県などでは50頭から100頭が出没した。その規模は近畿地方からすれば非常に大きな数である。絶対数だけで見れば秋田県で100頭出ても大したことないように思えるが、近畿地方で100頭出るということは大事件だ。

