母数となるクマの生息数が大きく異なるからである。東北地方は個体数が多いので出没する数も多いが、2024年には近畿地方や西中国地方でもそれなりにクマが出てきた。ただ、2025年の問題は単なる件数の多さだけではなかった。事故の性質そのものに、これまでとは異なる特徴が見られたのである。
説明できない事故の多発
2025年は、早い時期から専門家でも説明のつきにくい事故が相次いだ。前述したように、6月から7月にかけ、岩手県北上市で家の中にまで侵入する事例があった。さらに、北海道福島町では新聞配達員がヒグマに襲われるというセンセーショナルな事件が起きた。
福島町では4年前にも同じ個体による襲撃があり、直前にもスーパーマーケットのゴミ置き場に出没していたことから「対策しなければいけない」という雰囲気が醸成された。ところが、北海道の知床で起きた事故あたりから、社会や報道などの風向きが変わったように感じる。登山者が襲われたこの事故では、同行者が対抗しようとしても親子のクマが被害者を離さなかったという。特に、世論の動きが変わったのは岩手県北上市の瀬美温泉で起きた事故だろう。このあたりから捕獲数も増え、「クマなんかいなくていい」というゼロか100かの議論がSNS上で盛り上がるようになった。クマ被害に関する社会や世論のこうした動きは、今までにないものだ。
なぜなら、東北地方を中心としたツキノワグマによる人身被害は2023年も多かったからだ。秋田県や富山県などでの事例が多く、それらは山のドングリが凶作のため、クマの行動が変わり、中山間地域や農山村に放置されたカキやクリに集まったという説明ができた。過去の事例よりも確かに規模は大きくなったが、基本的な構図は同じだった。しかし、2025年に起きた人身被害の中には、複数の人でいても襲われるというように、人を狙って襲っているかのように思える事例があった。全てではない。死亡事故13件の中の一部だが、そうした事例がどうしても目立つ。これは従来の専門的な知見では、なかなか説明が難しい。
では、クマの行動が変化しているのだろうか。これまで市街地に出てきたクマは、パニックになって逃げ惑うことが多かった。ところが、2025年の事例を報告した映像などを見ると、どこか落ち着いて歩いているクマの様子が観察できる。もちろん、多くのクマに共通した行動ではないと思われるし、そうした映像は撮影しやすいからかもしれない。
しかし、人に対しての警戒心が低下しているクマが増えてきているのではないか。この点は、2023年ではほとんど見られなかった2025年の特徴である。
人身被害に関していえば、被害者が何かトリガーとなる行動をクマに対して行った可能性も考えられるが、特定のクマの行動が変容したのか、それとも大多数のクマの行動が大きく変わったのかは、現時点で明確に説明することはできない。しかし、従来の「クマの人への攻撃は防御目的がほとんど」という理解だけでは説明できない事故がある点が、2023年度との決定的な違いである。
