それから、家の中での動きには、屋外と決定的に違う点があります。方向転換の多さです。たとえば、広い公園を1周する時、私たちはほとんど直線的に歩いています。でも、居間からトイレに行くとき、立ち上がってから何度も向きを変えますよね。バランスを崩しやすいのは、方向転換をする瞬間なんです。
滑る対策を取ったからといって、つまずかなくなるわけではありません。自分の転び方がどのタイプかを知って、それに合った対策を取る。これが転倒予防の出発点です。
20秒でわかる転倒リスク
では、自分の転倒リスクをどう見極めればいいのか。私がお勧めしているのは、20秒でできる二つのテストです。
一つ目は5回立ち上がりテスト。キャスターのついていないいすに座って、「立つ/座る」を10秒以内に5回繰り返せるかどうか。
二つ目は片脚立ちテストです。どちらの脚でもいいので、片脚立ちが10秒以上できるかどうか。ふらついた時にすぐつかまれるよう、壁や机のそばで試してください。どちらのテストも、10秒を超えたら途中でやめて構いません。
両方できた方は、足腰が比較的しっかりしています。どちらか一方ができなかった方は、やや危ない。両方できなかった方は、かなり危ない状態です。上の「転倒診断フローチャート」も併せて試してください。20秒テストで両方できなかった方は、「いますぐの対策が必要!」なレッドゾーンに、どちらか一方ができなかった方は、オレンジからイエローのゾーンに相当します。
65歳から74歳の前期高齢者では、両方できる方が4分の3を占めます。ところが80歳を超えると、要介護ではない元気な方々に限っても、4分の1まで減ります。75歳前後は、元気な人とそうでない人の差が大きく開き始める、分かれ目の年代です。筋肉が減ってくるからですが、これを医学用語で「サルコペニア」と呼びます。
加齢でとくに落ちやすいのは、体を支えるための筋肉、「抗重力筋」です。なかでも大切なのが、太ももの前側の大腿四頭筋と、お尻の大臀筋。どちらも歩く機能、転ばない力に直結しています。だからこそ、転倒予防の土台は筋肉の維持なんです。
※この続きでは、転倒予防に役立つ体操を紹介しています。約6100字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年10月号に掲載されています(山田実「データでわかる転倒・骨折予防術」)。
■山田実(やまだ・みのる) 筑波大学教授。神戸大学大学院で学位取得後、京都大学大学院助教、筑波大学准教授を経て現職。専門は老年学、転倒予防・介護予防。著書に『転ばない足腰』など
