3人の視点が交差する、政治×事件の2重構造
――この作品は主要な視点人物が3人います。政治学者で野党第一党の党首特別補佐官・白石望、大手新聞社の記者・神林裕太、そして公安調査庁の分析官・長谷川晶。3人の視点が絡み合いながら物語が展開していく構造になっていますが、この設計はどのように考えられたんですか。
真山 まず、複数の視点人物を交差させることで、物語の波の中でAの登場人物の動きがやや沈むと、Bがクライマックスを迎えるという形で緊張感を維持させるという構成を取っています。今回はその頻度の間隔がとても短くて、ページをめくるごとに何か新しい衝撃的なことが起きます。
――500ページ弱ありますが、まったく緩む瞬間がない。政治学者の白石と、新聞記者の神林と、公安調査庁の長谷川、全然違う世界に生きている3人が、同じ事件の周りで動いていくというのが、読んでいて非常におもしろい。
真山 その3人にそれぞれ、いわゆるプロとしての観察眼みたいなものがあって、彼らの目を通して見ることで、同じ事件の3つの顔が見えてくるようにしたかったんです。
――白石の視点からは日本の政治がどう動いていくかというインサイダー的な側面、神林の視点からはスクープ記者として権力の腐敗を追う側面、長谷川の視点からは、事件の背後に何があるのかを調査する側面が描かれる、という重層的な構造になっていますね。
真山 そうです。そして、1つの大きな政治の物語が走りながら、もう一筋として、連続殺人事件が一体どういう結末を迎えるのかというミステリーが走っている。この2つが絡み合いながら展開していくというのが、今回の『オペラティオ』の構造です。
公安調査庁を舞台に選んだ理由
――今回、公安調査庁の分析官が物語の中心的な1人になっているという設定がユニークです。公安調査庁を書こうと思われたのは何か理由があったんですか。
真山 日本にはインテリジェンス機関がないとよく言われます。多くの人は内閣情報調査室がそうだと言うのですが、内調はどちらかというとアメリカの情報機関との連携がメインです。
ただ、本当にインテリジェンス機関が無いのかと聞くと、オウム真理教事件のときにクローズアップされた公安調査庁という機関があると。全国に支局があって、毎年キャリアも採用していて、それなりの人数がいる。暴力革命を目指している極左の人たちと極右の人たちを、破壊活動防止法という法律の中で実名を挙げて監視している組織が公安調査庁です。分かりやすく言うとイギリスのMI5と一緒ですよね。
今回の物語では、政治的に非常にきな臭い空気が蔓延した中で殺人事件が起きて、ターゲットは権力者だという状況になる。こうなると、やはり事件の底流に流れているのはテロじゃないのかということになりますよね。警察の公安と異なり、公安調査庁はテロを未然に防いで、今目の前で起きていることがテロかどうかを調べる官庁なので、小説としての雰囲気やリアリティが出せると思いました。
――この公安調査庁の世界も、真山さんの詳細な取材によって精密に描かれているのが、いつものごとくですが、驚かされるところです。
真山 私が小説の中で物語を動かすエンジン的な機関として使う組織は、例えば『売国』『標的』『墜落』の冨永真一検事シリーズで描いた東京地検特捜部にしても、わりと世間からは誤解されていることが多いんです。だからこそ、公安調査庁をご存じの方に「こんなことはしない」と言わせないための努力をしないと、取ってつけた舞台になってしまう。今回もいろんな人にお世話になって、新しい機関をリアルに書けたと思っています。
(後編につづく)
