現職の金融担当大臣が銀座の路上で刺殺され、遺体には「ざまあ」と書かれたメモが残される。犯人はその場で自殺。この事件を発端に、日本社会全体が怒りと熱狂の渦に巻き込まれていく――。真山仁の最新長編『オペラティオ』は、SNSが政治を動かし、国民の怒りが「武器」として利用される現代日本を鋭く描いたノンストップ・ポリティカルフィクションだ。
後編では、海外ミステリーを長らく愛読してきた真山さんが『オペラティオ』で描いたミステリーの構造や、登場人物の政治家・白石望に込めた「手段を選ばない」政治への問い、読者への強い思いを担当編集者の石井一成が聞いた。(全2回の2回目)
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「犬神家の一族みたいにしたい」――本格ミステリーの骨格を政治小説に
――実は、私が真山さんの作品を読んでかねて思っていたことがあるのですが、真山さんの小説は実はミステリー濃度がめちゃくちゃ高いということなんです。
真山 めちゃくちゃ高いし、すごくこだわっていますよ。
――今回の『オペラティオ』について言いますと、打ち合わせのときに真山さんが「犬神家の一族みたいにしたい」とおっしゃったことがあって。これは大変重要なヒントだと思っているのですが。
真山 石井さんとはすぐに、ああ、なるほど、その構図ですよねって盛り上がりましたね。テーマとしては現実に負けないように、そしてミステリーとしての骨格も死守しようと思いながら書いていました。
――例えば、一番最初に殺人を犯して自殺した脇本幸市という人物は、自称小説家なんですよね。
真山 そうそう。
――投稿サイトに小説を書いていることがすぐに捜査によって分かるんですけれど、なんと自分が起こした事件そっくりで、今後の展開を予見するかのような小説がウェブ上に残されているんです。これは本格ミステリー的なテーマをいくつも思い出させます。
真山 私は筋金入りのミステリーファンで、小学生のときに子ども向けのルパンシリーズを読み、中学時代からアガサ・クリスティに夢中になり、ゴールデンエイジ時代の英米の本格推理小説をずっと読み続けてきました。そしてだんだん高校生ぐらいになると、トリックも分かるし犯人も分かるようになり、おこがましいことに、これなら書けると思い始めるんです(笑)。小説家になろうと初めて思ったのは高校1年生のときで、最初に応募したのが雑誌『幻影城』でした。
――連城三紀彦さんや泡坂妻夫さんを輩出した伝説の推理小説専門誌ですね!
真山 ところが、応募したら雑誌がつぶれてしまいまして(笑)。高校時代に江戸川乱歩賞にも応募したこともあったんですよ。自分としては高校生でデビューして記者会見でどう答えようかと想定問答も考えていたんですけど。
だから、本格探偵小説の骨格はエンタメ性がすごく高いことも身に染みているし、何かをおもしろくするには、テーマとしてのおもしろさだけではなく、ミステリーとしてのおもしろさを持たなければいけないという意識が強いんですね。
――社会派小説をミステリーにするにはけっこう難しいポイントがあって、読者はまず作者が考えた偽りの構図に乗って、その世界像に沿ったキャラクターだと思って登場人物に感情移入しながら読むわけです。ところが最後にどんでん返しがあって、実はまったく違う意図でこの人たちは動いていたと分かる。
ミステリーとして成立させるためには、その上でもう一回読み直しても、登場人物1人1人の行動にまったく矛盾がない、むしろその登場人物がまさにこう行動するのが必然であったというふうに読者は感情移入できなければならないということですよね。
――難しいですよ、本当に。同様に、『ハゲタカ』は経済小説だと思ってくださる方がたくさんいるんですけれど、私としては経済を使った陰謀小説だと思っているんです。ハゲタカのラストも、ミステリーにあまり馴染みがない読者の中には驚愕された方も多いのですが、非常にミステリー的な構成なんです。サプライズエンディングとか、裏切り、伏線など、たくさんミステリーで学んできた小道具を、どうやって自分の世界観に引っ張り込もうかとよく考えます。
「陰謀論」から「論」を取りたい
――今回の物語では、SNS上で、陰謀論的な派手な言説が飛び交う様子が描かれています。
真山 陰謀論の「論」を取りたいんですよね。陰謀論っていうのは実は安心できるじゃないですか。どうせ嘘でしょって続くから。でも、「論」が外れたら、これは現実なんです。
例えばジョーカーみたい登場人物がいれば、ある意味安心するわけです、真っ黒だから。ところが世の中に真っ黒も真っ白もいないわけで、それがいろんな事情や都合、状況によって黒くなったり白くなったりする。要するに、現場で何人かの人が亡くなることは極めて悪い結果ですけれど、それによって日本が救われるなら結果としていいことなんだという価値判断さえ、政治の現場ではありうる。
――『オペラティオ』に描かれていることは、現実ってやっぱり陰謀よりも強いということなんですね。大きな物語が一人一人の人物に還元されていき、そのきわめて人間的な営み一つ一つが、我々の目には「驚くべき急展開」に見えているということが、緻密に解かれていきます。
真山 例えば、もし黒幕がいて、いずれ暴かれたとしても、その先に黒幕自身がびっくりすることが起きる。操ろうとしていた人間がコントロールできなくなるかもしれないというのが社会や政治だから、予想どおりの展開は絶対ないんです。

