白石望に込めた「手段を選ばない」政治への問い
――この物語の中心人物の1人、白石望はもともと政治学の研究者で、投票行動などを真摯に研究していた人物です。しかしある時期から政治のインサイダーとして関与するようになって、「ヘルメス」と名付けられた選挙戦略の開発に着手していく。これは真山さんご自身の日本の政治に対する希望や願いが投影されているのでしょうか。
真山 そうですね。まず2011年に『コラプティオ』を書いたときに、政治はきれいごとで済まないということを、強く打ち出したかったったんです。その後時間の経過があって、コラプティオの登場人物たちを10年以上年を取らせたのが今作です。
やはり政治って結果なんですよね。今年2月の衆院選で自民党が圧勝したときにはっきり分かったのは、多数決の世界でたくさんの議員が議席を獲得するとそれは力になるんだ、ということです。野党がいくらきれいごとを言っても、結果的には与党になれない限りは何もできないわけですから。
――どうすれば手段を選ばず勝つかということを堂々と読者に提示して、彼らが理想としていることを達成するためだったら、一線を越えたとしても、それはそれで正義なのではないかという問いを投げかけたかったと。
真山 そうです。ずっと社会のことを汲み取りながら書いてきて、そろそろ“目的のために数を取りに行く”というカードを白石に託してみようと思いました。白石がそれに成功するかどうかは分かりませんけど。
――作中でも出てきますが、本作は、イギリスで起きたEU離脱(ブレグジット)に大いに触発されて書かれた部分もありましたよね。
真山 ブレグジットでは英首相の上級顧問を務めたドミニク・カミングスという人物が軍師として暗躍しました。彼も手段を選ばない方法で、イギリスはEUから離れるべきだという世論を作る結果を出したわけです。
私は大学では政治を学んだのですが、「政権交代をするにはどうしたらいいのか」ということが研究課題だったんです。至った結論は簡単なことで、投票に行かない50パーセントの人を味方にすれば勝てる。カミングスはそれを実践し、ブレグジットを成功させているんですよ。同じことを考える人がいるんだと思い、それを日本の政治小説でやれないかなと考えたところが、今思うと問題意識の始まりでした。
――政治に無関心な人たちをどうすれば動かせるか、という問いが作品の根底にあり、その白石の答えとして「ヘルメス」という情報戦略が描かれていきます。
真山 選挙で勝つ方法には盲点がある。ただそのためには大きな刺激が必要なんです。その刺激を与えることで、カミングスはイギリス人を覚醒させたわけですね。それが結果的に、イギリスにとってハッピーだったのかアンハッピーだったのか分かりませんけど。日本にもそういう革命的な刺激を与えたらどうなるかという可能性を、小説で試してみようと思いました。
久しぶりにゲラ作業が楽しかった
――今回、連載が終了した2025年から単行本にするまでの間にも、現実がさらに大きく動いていきました。
真山 高市政権ができてしまっていたので、だいぶ手を入れているんですよね。でも義務感でゲラを修正していたのではなく、ここを触るならもっとおもしろくできるよねと思うから赤字を入れる。もちろん、整合性を合わせる作業は大変だったりもしたんですけれど、ゲラを触るのが楽しかったという印象を久しぶりに持ちました。「もうちょっと悪さしようかな」とか、「もう少しここを足すとみんなはびっくりするだろうな」ということがすごく見えていたというか。
――ほんとうですか! その改稿を経て、あらゆるレベルの階層で衝撃的な事件が起き続け、現実の日本の政治よりも早いスピードで政権がどんどん変わっていく作品になりました。
真山 「事実は小説より奇なり」と言いますが、やはりこの職業をしている以上、それを超えることがミッションじゃないですか。ところが事実が次々と小説を超えてくるので、これは手加減している場合じゃないとすごく思いました。
――最後に、この作品をまだ読んでいない方に向けて一言お願いいたします。
真山 政治って遠いどこかで誰かが勝手に行っているものではなくて、あなたがこの変化に気づかないと飲み込まれるんだと切実感を持ってほしいという思いが出発点でした。と同時に、政治小説は難しいし、なんとなくメリハリがなくてたるい感じじゃないの?と思っていらっしゃる方に、そうではないことをどうやってお見せしようかとずっと考えてきた結果、たどり着いた小説が『オペラティオ』です。
純粋なエンタメとしてとんでもなくおもしろい小説を作ったという自信があります。予想通りの展開は絶対しないし、どんでん返しがある。ぜひ最後まで読んでいただければと思います。
