2022年に刊行された『汝、星のごとく』は、刊行直後から熱烈な支持を集め、翌2023年に第20回本屋大賞を受賞。同年に刊行されたスピンオフ小説『星を編む』と合わせ、シリーズ累計発行部数は176万部を超えている。

 物語の主人公は、瀬戸内の島で出会った青埜櫂と井上暁海。惹かれ合いながらも離れ、時に傷つけ合うふたりの15年間を、実写映画で横浜流星と広瀬すずが演じた。「この小説は、作家人生における一番星のような存在」と語る原作者の凪良ゆうが、映画化への思いを明かす。

第1章は、藤井監督と今井撮影監督が15年前にお金を出し合って購入したデジタル一眼レフ「EOS7D」で撮影されている。©2026「汝、星のごとく」製作委員会 ©凪良ゆう/講談社

企画書に添えられた「青埜櫂として生きたい」という手紙

『汝、星のごとく』は、担当編集者さんとの雑談のなかで聞いた学生時代の恋愛話がきっかけで生まれました。当初は「男女が出会って別れる」という一般的な恋愛だけで小説として成り立つのか不安を感じ、ミステリー要素を入れるなど迷走もしました。そんなときに映画『花束みたいな恋をした』(21年)を観て、何気ない出来事の積み重ねだけでも、心を動かす恋愛を描けるのだと気づいたんです。それで、小細工なしでストレートに恋愛を書こうと決めました。

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 映画化のお話はありがたいことに各社からいただきました。でも、東宝さんからいただいた企画書には、横浜さんの熱い想いが綴られたお手紙が添えられていました。

青埜櫂役を演じた横浜流星。©2026「汝、星のごとく」製作委員会 ©凪良ゆう/講談社

 お手紙には、原作を読んだ横浜さんが「青埜櫂として生きたい」と思ったこと、そして、この作品を映画にするなら藤井道人監督しかいないと考えていることなどが、まっすぐな言葉で綴られていました。

 横浜さんは『流浪の月』(22年)にも出演してくださいました。本作で彼が演じた中瀬亮は、歪んだ愛情で恋人を支配しようとするモラハラ男。役のイメージから、当時SNSのフォロワーもかなり減ったらしいと聞きました。それでも、亮役を演じられてよかった、と言ってくださったんです。「誰も愛さないキャラクターだからこそ、僕が最後まで愛して寄り添ってこの役を生きていこうと思った」とも話されていて、真剣に役に向き合う俳優さんなんだと感じました。

 その横浜さんが、ここまで『汝、星のごとく』の映画化に熱い情熱を持ってくださるのなら、ぜひお任せしたいと思いました。監督を務められるのが、横浜さんと何度も作品をともにしてきた藤井道人さんであることも心強かったです。

井上暁海役の広瀬すず。©2026「汝、星のごとく」製作委員会 ©凪良ゆう/講談社

 井上暁海役が『流浪の月』で横浜さんの恋人を演じた広瀬すずさんに決まったと聞いたときは、思わず「やったー!」と叫んでしまいました(笑)。演技のタイプは全然違いますが、お芝居の相性がすごくいいと思っていたおふたりが、今度はW主演で、本気でぶつかり合うようなお芝居を見られると思うと、いちファンとしても期待感が高まりました。

 今回の映像化では、具体的な形も固まっていない段階で、藤井監督と横浜さん、プロデューサーのみなさんと今治へ行きました。一台のレンタカーにみなさんと乗って島や町を回ったり、ご飯を食べたり、花火を見たり……まるで「大人の修学旅行」でした(笑)。原作者としてそんな早い段階から制作チームと一緒に現地へ行ったことはありませんでした。「ここはこう撮ってほしい」という話をしたわけではないのですが、一緒に過ごしているうちに、みなさんがいかに『汝、星のごとく』という原作を大事にしているのかが自然と伝わってきまして、制作チームを信頼してお任せすることができました。

 最初から繰り返してお伝えしていたのは、キラキラした「ザ・恋愛映画」にはなってほしくない、ということでした。『汝、星のごとく』は男女の恋愛を描いてはいますが、実際にはもっと切実なお話です。人間の弱いところもたくさん出てくる。映画ではそこも綺麗ごととして描きすぎず、櫂と暁海を“生身の人間”として撮ってくださったことが、すごくうれしかったです。

 映像については門外漢なので、プロであるみなさんにお任せしていましたが、脚本については脚本家の安達奈緒子さんと同じ「物書き」同士として真剣に向き合うことになりました。最初にいただいた脚本は、かなり原作に忠実に書いてくださっていましたが、安達さんと直接お会いする機会をいただいて、「物語のいちばん太い柱だけは残してほしいけれど、大事にしている部分さえ同じなら、細部はどんどん変えてくれていい」と私の想いをお伝えしました。その後にあがってきた脚本は、最初にいただいたものとはまったく違うものでした。作品の芯を捉え、かつ安達さんらしい脚本になっていて、「これです」と思いました。改めて、プロの方を信じてお任せすることの大切さを感じました。

 冒頭の作り方も原作とは違います。ですが、初号試写を拝見して原作小説と“同じ魂”が宿っていると感じました。藤井監督の魂で作られている映画なのに、私の魂も入っている。それは、言葉にするのが難しいくらいうれしいことでした。

 映画には、原作にはない、ふたりが過ごした15年を映像ならではの方法で見せる場面が出てきます。脚本を読んだときは、「これはさすがにやりすぎではないか」と思った部分も正直ありました。小説で同じことをやると、くどくなって感動の押し売りのようになってしまうからです。でも映像で観ると、素直に感情がゆさぶられて、「原作が長い時間をかけて積み重ねてきたものを、映画はああいう形で一気に見せることができるんだ」と感激しました。