文春オンライン

プロ13年目でキャリアハイ ヤクルト・井野卓という「キセキ」のような選手

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/10/17
note

ベテランになってもおごらない謙虚さとひたむきさ

 私の平安高校の後輩でもある高橋奎二の初勝利のときにもマスクをかぶっていた。じゃじゃ馬な高橋の手綱を上手く引き、見事に勝利に導いてくれた。高橋は、井野卓だったからこそ安心して、信頼をしてミットめがけて投球をすることができたのではないかと思う。もちろん、ファームでボールを受けたことがあるということも加味しての起用だとも思うのだけれど、私の目にはとてもいいバッテリーだと感じた。他の投手にしても、投げやすそうに投げているなと感じることが本当に多い。

 練習の取り組み方にしても、とても感心する。打率は、正直な話、高くはない。捕手というポジションもあるし、チームバッティングを常に意識しているために、どうしても高くはなくなるのだ (というような、オブラートではなくダンボールに包んだ言い方をしておこう)。しかし、毎日の練習の中でしっかりと目的意識を持ち、どのようにすれば打てるのかということを考えながら行っている。みなさんは、プロだから考えながら練習するということは、当然と思うかもしれないが、同じことの繰り返しの日々を送っていれば、この意識は薄れていくものなのだ。正確に言うと、薄れる日もあると言ったほうが正しい。

 そんな中、井野卓からはそれが感じられない。年下であろうが何であろうが、気になったことは何でも聞いている。そして、練習の中で、「ああではない、こうではない」と毎日試行錯誤しながら、技術を高めようとしている。そうした姿勢が、捕手としての配球や勝負勘というものを向上させている要因なのだとも思う。それでも私は、先日の試合を観戦した中で、ネクストバッターズサークルにいる井野卓を見て、いっそバットを持たずに打席に入っても結果は変わらないんじゃないかな、と思ったことは秘密にしておこう。

ADVERTISEMENT

 一つの試合の中で、脇役の貢献度というものは本当に微々たるものなのかもしれない。しかし、長いシーズンを終えるときに、「あの1勝が大きかった」と感じることが必ずある。リーグ優勝、クライマックスシリーズ進出を賭けた戦いが続いていたらなおさらだ。今年のスワローズはまさに、そういった意味で脇役の力が大きかったのではないかと思う。ぜひ、みなさんも今よりもほんの少しだけでもいいので、こういった選手の後押しをするべく、声援を送ってほしいと思う。

※「文春野球コラム クライマックスシリーズ2018」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/-/9261でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。

プロ13年目でキャリアハイ ヤクルト・井野卓という「キセキ」のような選手

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー
文春野球学校開講!