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もうひとつのペナントレース――文春野球ベイスターズの国から2018〜敗因

文春野球コラム ペナントレース2018

note

「元選手」が原稿を書くということ

黒田:でも超正統派といっても、簡単に書けるもんじゃないですよ。

西澤:そうそう。高森監督は「元選手」っていう絶対的なアドバンテージがあるけど本当はそこじゃなくて、対象を一歩引いてみる客観性と高い文章力。そこに“物書きとして”嫉妬していました。「西澤じゃなくて高森の記事を読みたいんだよ」というコメントをどれだけ見たことか。

高森:西澤さんにそう言ってもらえると嬉しいです。僕は昔から文章、特に情景描写や、ストーリーを書くことが好きでした。そのなかでも、「感情のやりとり」を言語化することに挑戦することがライターとして最も書きがいのある領域です。プロ野球の現場、とりわけ18.44メートルの間に流れている感情の動きは凄まじい。これほど泥臭く、生々しく、そして美しい世界を、僕はここ以上にはまだ出会えていません。だからこそ、その世界を言語化したい、言語化できると信じて、モノを書いています。

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黒田:なんか、いちいち情感こもってますね。

高森:ただ、僕には、どこまでいっても「元選手」という肩書きがつきます。文章そのものよりも、「元選手が書く」という前置きが先に立ちます。どれだけダシにこだわっていようと、手打ち麺を朝から打っていようと、先に立つのは「元選手」。書くことそのものにこだわっても、意味がないんじゃないか。そういう想いになった事もあります。

西澤:高森監督は、田代さんやカジのこと、本当は書きたくなかったんじゃないですか? 自分にとって大事な人のネタでヒット稼いでるとか思われたくないじゃん。前半は割とそういう葛藤あったんじゃないかって勝手に思ってました。

高森:……最後の最後、CSで田代さんを書いた時には、「誰かの評価」というものを気にすることなく、自然と田代さんを書くことができました。当初は全く違う原稿で、読み返しても全く面白くない。そのまま入稿することもできたのに、なぜか田代さんの顔がチラついて完成できない。何度も書き直しているうちに、自然と2009年に戻っていて、二階堂の緑茶割りを飲みながら酔っている田代さんの横で原稿を書いているイメージになっていました。

黒田:なるほど。先ほどからの執拗なまでのラーメン比喩も田代ラーメンリスペクトだったんですね。

高森:あの2本の原稿は書いている時の感覚があまりにも心地よくて、そこに、元選手とか、うまく書きたいとか、そういう世界は一切なかった。ただそこにある感情を、その景色から言葉を借りてくるだけ。書き手というのは、常に対象があって、そのおかげで言葉を紡ぐことができる。自分が「書いている」なんていうおこがましさがあるうちは、いい文章は書けないんだということを、田代さんの原稿を書きながら教えてもらった感じがします。

「でも、私は……負けた……」

西澤:これは受けるだろうなとか考えながらコラムを書くの、つまんないんですよね。私高森監督が好きなのは、そういう部分を抗って、葛藤して、でも勝負しているところ。

高森:大切なのはHITを稼ぐことではなく、「こんな世界があったんだ」という発見を、多くの読者に知ってもらうこと。それが、HITという指標を置くことでより盛り上がるなら、大歓迎です。プロ野球は、皆さんが思っているより100倍面白い。現場にいた僕がいうんだから、間違いありません。しかし、その面白さが、イマイチ伝わりきれていない。文春野球という自由すぎるフィールドは、その面白さを引き出すことのできる媒体なんじゃないかと、少し期待しています。

西澤:CSで突然2打席連続満塁ホームラン打つとか、すごいそれもベイスターズっぽくて(笑)。でも私はあのミニ四駆の話が一番好きだな。あれが勝つ世界が好きだな。CS無理していっぱい書いてくれて、本当にありがとうございました。

黒田:西澤さんもですよ。僕は去年のコラムを読者として見ていて「この人には絶対かなわねえ!」って思っていました。なんでそんなトコ見てんのよ? ってとこだったり選手への愛だったりを西澤フィルターを通して文章にしていく。あれはひとつの文学だと思うし、この人の真似は絶対にしちゃいけない。だから最後……筒香のコラムで勝てなかったのは僕も悔しかったです。

西澤:やめて黒田さん……今でも「負けたんだよな」って、お風呂とかで思い出してうわぁぁってなってるの……。知名度も人気もある人にわけわからんおばさんが勝つのも、 文春野球だと思ってがんばってきたけど、でも、私は……負けた……。

高森:ええ。第5戦で吉川さんが勝ってくれただけに、あそこでしたよね。

西澤:うわぁぁぁぁぁ。

黒田:CS、勝ちたかったですね。HIT稼げないお前が言うなって感じですけど、二人の頑張りを見て、自分も勝ちに貢献したいと思いました。バラバラだったけど、最後チームとして団結した気がしますしね。

高森:まとまってきたところでシーズンが終わって翌年リセットされる。よくある話です。

西澤:うわぁぁぁぁぁ。

来年優勝するためにはどうすれば?

黒田:でもでも、負けましたけど僕最後に1131HITついたのが結構自信になってます。

西澤:私、何度か「書くのキツかったら代打だそうか」って言われたけど、断り続けていたのはこのチームの空気を変えたくなかったからかもしれないなって、今思いました(照)。来年は優勝できるかな。南の島に行きたいんだよ~~。

高森:えっ? 来年もやるんですか?

黒田:いやぁ……どうでしょうね。

西澤:やっぱベイスターズっぽいな(笑)。

高森:こうしましょう。来年はやくみつるさんや森永卓郎さん、柳沢慎吾さんに、名古屋風タイラーメン関西しょうゆ味の作り方を教えて、困ったら小泉進次郎氏に代打で登場してもらおう。おそらく、18万票、もとい、18万HITくらいは打ってくれると思うので、優勝間違いなしだ。

黒田:なるほど。正統派しょう油味の田代ラーメンはあえて入れないと。

西澤:そうだ監督、最後に一つ聞いてもいいですか? 長浦って本当にお化け出るの??

高森:出るか出ないかは、来年のお楽しみ。お化けも僕たちも。それではまた来年、文春野球で

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