孫正義という経営者を語るとき、私はいつも明暗が分かれた2枚のカードを思い浮かべます。
1枚は中国テック企業・アリババ。2000年に投じた約20億円(諸説あり)が、ピーク時に十数兆円の含み益に化けた、人類の投資史でも屈指のホームランと謳われる「幸運の一撃」。その後始まる中国の急成長を見抜いたこの一撃が、その後のあらゆる大勝負を可能にする「原資」と「胆力」を孫さんに与えたと言えるでしょう。
もう1枚はWeWork。華やかな青写真が崩れ、巨額の減損を刻んだ「不運の一撃」。コーワキングスペースを運営するこのNY発のベンチャー企業に孫さんは2兆円近い資金を投入しましたが、そのほぼすべてが消滅。ソフトバンク・ビジョン・ファンド史上最大の失敗と言われ、孫さんも「私の人生の汚点」、「僕の責任」と失敗を認めていますが、同時に「反省はするが萎縮はしない」とも発言して強い印象を残しました。
この2枚のカードの振れ幅こそが孫正義の本質であり、彼は「勝負師」という言葉が世界で最も似合う経営者だと考えられる所以であります。
その男がいま、キャリア最大の一点張りに出ています。舞台はAI。賭け金はOpenAIへの累計646億ドル(約10兆円)。そして、この巨大な賭けを支える“担保”が、皮肉にも半導体設計のアームであり、賭けを物理的に実現する舞台が「データセンター(スターゲート)」です。
10兆円が18兆円に化けているが、換金はまだまだ先
今日は、この一点張りの構造を解剖しようと思います。キーワードは「3つの心臓」です。この3つの心臓すべてが動かなければ、孫さんの大勝負に暗雲がたちこめることになります。
《第1の心臓:OpenAI 「未来」に賭ける10兆円の巨大投資》
まず賭けの本丸、OpenAIです。ChatGPTで知られるこの会社にソフトバンクの投じた資本は、10月1日には最終出資をもって累計646億ドル(約10兆円)に達しました。これはもはや「投資」というより、AI時代の主導権そのものを買いに行く行為です。
ソフトバンクがOpenAIに投じた10兆円は、10月1日時点でおおよそ18兆円ほどの評価額になると言われており、それが実現すればまたしても孫さんは大きな勝利を手にすることになります。
