世界的実業家として知られる孫正義氏。彼のもとで右腕として働いた元幹部のアロック・サーマ氏は、初めて孫氏の“極秘ダイニングルーム”に招かれた日の衝撃を今も覚えている。

 忍者のような執事、1本5000ドルの高級ワイン、そして総資産を失っても「僕は幸せだ」と言い切る“クレイジー”なカリスマの素顔……。ここではアロック氏の著書『右腕が見た孫正義「クレイジー」が世界を変える瞬間』(光文社)の一部を抜粋し、極秘ランチの内情を紹介する。

 

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“極秘ダイニングルーム”でランチ

「さてと、ニケシュ(編集部注:ドイツの通信大手ドイツテレコムの携帯電話子会社であるTモバイルの上級幹部)から聞いていますが、あなたは頭のいい方だそうですね」。笑顔でそう言いながら、孫はダイニングテーブルの自分の向かいの席を私に勧めた。

 物腰は丁寧だったが、それは客観的に事実を述べているようでいて半分は問いかけでもあり、つまり、私に力量を証明してみろと暗にほのめかしていた。

「ニケシュはとてもやさしい人ですね」と、私も笑顔で答えた。

 なすべきことは決まった。与えられた時間は1時間。ランチを食べながら、“天才”として広く認められた人物に、自分が「頭のいい男」であると証明する。お膳立てはニケシュが整えてくれた。今度は自分ががんばらなければならない。

 ランチは午前11時に設定されていた。ずいぶん早いと感じたが、孫にとってはそれが好みのルーティーンだった。さいわい、私の乗った便は時間どおりに到着し、孫の秘書のひとり、フミコさんがコンラッドホテルまでの車と運転手を手配してくれた。

 東京には素晴らしいホテルがいくつかある(アマンは世界的に最高の都市型ホテルかもしれない)が、コンラッドにはソフトバンクと同じビルに入っているという確固たる利点があった。東京の多くの高級ホテルと同じように、コンラッドも高層階から始まっている。ここでは、28階にある吹き抜けのロビーがチェックインフロアになっていた。

 ソフトバンクのオフィスには専用の入り口があり、私がビルのロビーに午前10時45分ちょうどに着くと、フミコさんが待っていた。彼女はほっそりとした上品な女性で、柄物のワンピースにハイヒール、温かな笑顔で私を迎え、孫と彼の来客専用のエレベーターに案内してくれた。