ある夜、孫正義氏は自社の“極秘ダイニングルーム”にFacebook(現Meta)の若き創業者、マーク・ザッカーバーグ氏を招いた。彼らは一体どんな会話を繰り広げたのか。
孫氏の右腕として躍動するアロック・サーマ氏の著書『右腕が見た孫正義「クレイジー」が世界を変える瞬間』(光文社)の一部を抜粋して、紹介する。
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孫氏から会食の誘い
その日は、ニケシュ(編集部注:ドイツの通信大手ドイツテレコムの携帯電話子会社であるTモバイルの上級幹部)と共同で使っているオフィスにいた。東京湾を見下ろすその景色も、だいぶ見慣れたものになってきていた。時刻は午後。その朝ロンドンから到着したばかりでうとうとしていると、アイフォーンとアイパッドが同時に震え、食後の眠気から一気に引きもどされた。
スキさんからのメールだった。カレンダーの招待状が添付されている。
「孫が午後6時の食事にお招きしたいとのことです」
数秒後、ニケシュがやってきて、「今夜空いてるか?」と訊いてきた。マーク・ザッカーバーグとの食事だという。
東京を訪れるテック業界の有名人は、例外なくこの26階を詣でていた。それは、ジベルニーを訪れる画家にとってのモネとの謁見、ローマを訪れるファシストにとってのムッソリーニとのお茶のようなものだった。
アメリカのニューヘイブンは午前1時。大学生には遅い時間ではない。以前、フェイスブックがまだクールだと思われていた頃に、サミルは『イェール・デイリー・ニュース』に記事を書き、イェールの学生たちにSNSをやめるよう呼び掛けたことがあった。私は皮肉に気づかず、その記事をフェイスブックで共有してしまった。友人たちのひとりでもその記事に納得したかどうかはわからないが、たくさんの「いいね」がついた。
私はサミルのワッツアップにメッセージを送った。
(筆者) 今晩誰と食事すると思う?
(サミル) ?
(筆者) ザッカーバーグ
(サミル) いいじゃん。僕の記事、見せてあげなよ
(筆者) もちろん
(サミル) それと写真も撮ってね
(筆者) で、フェイスブックに載せる?
(筆者) それはダサいな
(サミル) 笑
私のザッカーバーグに対する印象は、映画『ソーシャル・ネットワーク』がほぼベースになっていた。つまり、高慢ちきで、陰気で、自信のない、自閉症サバンのような人物を予想していた。ソーシャルメディアの依存症に悩む多くの人にとって、ザッカーバーグは「ドクター・イーブル〔アメリカのコメディ映画『オースティン・パワーズ』に登場する悪役〕」であり、しかもイーブルほど面白くもない人物。私にとっては、ディランの『ジョーカーマン』―群衆を操り、夢を捻じ曲げる人物だった。

