「そうですね、僕にとってのインターネットビジネスモデルとは、理論上、無限にリーチできる変動費ゼロのプラットフォームでした」。そう言って、強調するために彼は繰り返した。
「無限にリーチ。変動費ゼロ」
その言葉は、インターネットの破壊力を端的に言いあらわしていた。この20年間で最も成功したテック企業には、資本投資を最小限に抑え、ユーザー間の相互作用を促すことで価値を生み出す「プラットフォームビジネス」がいくつか挙げられる。そうしたビジネスモデルには通常、強力な「ネットワーク効果」がある。参加者が増えるほど、すべてのユーザーにとってプラットフォームの価値が高まるというわけだ。たとえば、のちにソフトバンクが出資することになるウーバーがそのいい例だ。ドライバーが増えるにつれてユーザーの待ち時間が減り、車両オプションが増えて、より多くの顧客を呼び込み、さらにドライバーが集まる。まさに典型的な「ネットワーク効果」あるいは「自己強化的なフライホイール(弾み車)効果」が生まれている。こうしたビジネスモデルのもうひとつの特徴は、「勝者総取り」の力学だ。ある時点でそのプラットフォームがすっかり定着してしまい、ライバルが取って代わることがほぼ不可能になるからだ。
唯一の後悔は資産を失ったことではなく…
「僕はかなり早い段階でそのことに気づいて、これは積極的に投資しなければならない千載一遇のチャンスだと思いました」と彼は続けた。
「唯一後悔してるのは、もっとお金があればさらに投資できたのにということですね」
なるほど。まるでイカロス〔ギリシャ神話に登場する優れた工匠ダイダロスの息子。父親が鳥の羽と蝋で作った翼で空を飛び、太陽に近づきすぎたために蝋が溶けて海に墜落する〕が太陽にもっと近づけばよかったと言っているようなものだ。
2000年2月、ソフトバンクの企業価値はピークに達し、2000億ドル近くにのぼった。
ところがバブルがはじけると、その株価と孫個人の純資産は95パーセントも減少し、彼の名は「史上最大の個人資産の損失」によってギネスブックに載ることとなった。590億ドルもの紙上の富(金融資産)の喪失。この記録は20年以上にもわたって破られなかったが、2022年になってようやくイーロン・マスクが更新した(ただしマスクはその後、半年で大半を回収している)。
並の人間なら、意図的にしろ、そうでなかったにしろ、利益を確定せずに株をもちつづけてしまった決断に苛まれるところだ。だが孫の場合は、“並”であることこそが最大の屈辱だった。