しかし、OpenAIは未上場企業です。含み益として計上できても、明日換金できる資産ではない。だからこそ格付け機関はソフトバンクの企業としての信用力をBB+という低めに設定しており、「OpenAIのIPOが実現すれば信用力を支える可能性がある」と明記した機関もあります。
つまり第1の心臓は、拍動はしているが、まだ「未来にしか血を送れない」心臓です。この心臓を今日の血液(資金)で動かし続けるために、孫正義は第2の心臓を担保に差し入れました。
少なく見積もっても65兆円以上の膨大な含み益をもたらした
《第2の心臓:アーム 1社でソフトバンクの信用を左右する担保価値》
ここが今回のストーリーの白眉です。孫さんが2016年に3.3兆円で買収を決めた半導体設計を得意とするイギリスのアーム社は時価総額ベースで2026年6月18日(年初来ピーク)約4,694億ドル=約70兆円となりました。これは買収時の約21倍であり、ソフトバンクグループに対して、少なく見積もっても65兆円以上の膨大な資産価値(含み益)をもたらした計算になります。
とりわけ今年に入ってからの勢いはすさまじく、3月末から6月にかけて3倍に垂直上昇しました。この夏のソフトバンク信用(クレジット)ストーリーにおいて「株価が格付け機関の判断を実際に動かした唯一の資産」でした。
格付け機関のS&Pが7月16日のレポートで基準に置いた「2026年3月末」のアーム株は約151ドル。それが6月18日には439ドルまで、わずか2~3カ月で約2.9倍に垂直上昇しました。
この上昇を受けて、S&Pは「従来想定を大幅に上回って回復した」としてソフトバンクについての評価をネガティブ→安定的に引き上げたのです。株価そのものが信用力の担保として機能した瞬間でした。
ただし、格付けは諸刃の剣です。S&Pは同時に「アーム1社がソフトバンクの投資資産価値の約半分を占めている」集中リスクを指摘しました。つまりアームが上がれば賭けが打てるが、アームが崩れれば全体が揺らぐ。この一蓮托生の構造こそ、アームが「ソフトバンクのもう一つの心臓」たる所以です。実際、株価は7月16日時点で既に262ドルへ反落、7月末239ドルまで沈んだ後、9月に333ドル台へ切り返しました。ソフトバンクの信用を支えるはずの担保価値そのものが、常に大きく揺れているのです。
親会社のソフトバンク本体の株価も、この動きにぴたりと連動しています。アームの鼓動が、そのまま親会社の信用力の鼓動になっている――これが構造の核心です。
