猟師は動物を撃つ瞬間、何を考えているのか。5年前に東京を離れ、関東近郊の山で猟をしながら生活をする俳優・東出昌大さんは「山中で野営をしながら、過去に殺してきた動物たちの記憶を辿り、『命を奪うこと』について葛藤したこともある」という――。
※本稿は、東出昌大『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
鉄砲を手に、鹿を獲りに行く
この日の目的地は、人里から7時間歩いた山奥のM沢。そこは師匠の服部文祥さんが昔よく通っていた猟場。近くに公道も林道も無いため人の出入りが無く、鹿は多くいるが警戒心が薄い。いわゆる鹿天国。
猟期が始まってから未だ熊に出会えていない私は「このM沢の裏の山で鹿を獲る。その鹿の匂いに引き寄せられた熊を撃つ。それまでは鹿を食べながら居続ける」という作戦でいた。
野営道具が入ったザックを背に、鉄砲を手に、朝7時狩猟登山開始。
秋が深まった山の色味はたった三色。樹皮と岩肌の白、苔と針葉樹の緑、地面を埋め尽くす落ち葉の茶色がひたすら続く。30分おきくらいに「ピィッ!」と鹿に鳴かれるが、目的地までまだまだ距離があるため鉄砲は構えない。
山中にクマの頭骨が転がる
9時半。川の横で大きな頭骨を拾う。牙が大人の指ほど太い。熊だ。山中で熊の骨を拾うのは初めて。周辺にも様々な骨が転がっている為、半年以上前にここで自然死したのだろう。ゴツい犬歯を抜いて、緊急時用の医療ポーチに仕舞う。
「帰って、欲しい人がいたらあげよう」
11時、笹しか生えていない裸の山の頂上で小休止。もう冷え切ったコーヒー150mlくらいとカロリーメイト半パックで昼食を済ませ、立ち上がりざまにサクマドロップを口に放り込む。
その甘味を楽しみながら北側に面する寒々しい針葉樹林帯の斜面を下る。さっきまで登ってきた南側斜面が体感温度で10℃くらいあったろうか。1日のほとんどが日陰のここは吹き上げる風も冷たく、0℃くらいに感じる。
