殺していい理由はあったのか

夕食を終え、歯を磨き寝袋に潜り込む。寝る前に、さっきの鹿の表情を思い返す。あの顔は、何を思っていたんだろう。きっと、撃たれた次の瞬間から、色々な感情を持ちながら走ったのだろう。

「何ダ」「何ガ起キタ」「何デ痛イ」

そしてあの木立の下で私を見据えたあの時のあの目は、「オ前ハ何ダ?」と問うていたような気がしてならなかった。

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俺は「足を鍛えたい」「熊を獲りたい」「野営中に肉を食いたい」「余れば飼い犬の為に持ち帰りたい」と思って、鹿を撃った。しかし、それらの理由は、彼女に激痛を感じさせたまま数百mも走らせ、殺して良いほどの理由には到底ならないような気がする。

そして俺は、今晩食べる部位をまな板に載せたあと、川に浸かる死体から尻尾を切り取った。この尻尾は行政に提出すれば1万円貰える。その尻尾は肉よりも先に、ザックのポケットに仕舞い込まれた。

これまで鹿、猪、熊、牛も殺してきた

「俺は何をしているんだろう」自分で自分が気持ちが悪い。正当な殺しって、今まで果たしてあっただろうか? 正当って何ダ? 見上げるのは夜空ばかりでする事もない。

今まで何頭の動物を殺してきたか、獣と出会った山の地図を思い描きながら数えてみた。鹿で72頭。一頭一頭、出会いから殺しまでのドラマは忘れていない。猪7頭。熊は駆除2頭。そういや牛も1頭、アフリカで殺したな。

「俺は今まで、何頭の牛を食ってきたんだろう?」

数十頭か? 数百頭か? 想像出来ない。薄墨色に染まり始めた夜空の遠いところを、赤と黄色のライトを点滅させた飛行機が飛んで行く。

「あの飛行機の中で、ビーフ オア チキン? ってやってんのかなぁ」

音が遅れてやってきた。動物と私しかいない谷に、人工のエンジン音がゴォーっとこだまする。

東出 昌大(ひがしで・まさひろ)
俳優
1988年、埼玉県生まれ。’04年「第19回メンズノンノ専属モデルオーディション」でグランプリを獲得。’12年、映画『桐島、部活やめるってよ』で役者デビュー。現在は北関東の山間部で狩猟生活をしながら役者業をしている。
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