『ルポ 被爆二世』(小山美砂 著)

『ルポ 被爆二世』は、被爆二世が抱える苦悩、そしてそこにある問題に近づこうと著者の小山美砂さんが様々な声に耳を傾けたルポルタージュだ。ただ、読者である私たちは、読み進めながら深い森をさ迷うような感覚を味わうことになる。

「被爆二世の方たちにお話を伺うと、色々な考え、立場の方がいて、ひとつの型で捉えることができない難しさに直面します。戦争や被爆の体験を聞く取材とは違う複雑さを感じるのです」

 問題のひとつに、被爆者、胎内被爆者と明確に分けられた制度の線引きがある。胎内被爆者とは母親のお腹の中で被爆した人で、両者は被爆者援護法が定める基準を満たせば「被爆者健康手帳」が交付される。医療費の自己負担分は原則無料で各種手当が受けられる。

ADVERTISEMENT

 被爆二世にそういった援護はない。これまでの調査研究において被爆の遺伝的影響を示す結果が得られていないことがその理由だ。しかし、被爆二世たちはそれでは説明のつかない不調を体に感じ、あるいは病に倒れた人を知っている。原因不明の発熱や不整脈に苦しめられる、心臓に重大な疾患がある、白血病を突然発症し亡くなる、そういった人たちの姿を。

「一冊に収めきれないほど二世の方たちの思い、人生は様々でした。“被爆二世とはこうだ”と決めつけず多くの人にお話を伺い、ただ声を集めるのではなく、胸の内の思いにたどり着かなければいけない、言葉の先の気持ちを掘り下げなければいけないと思いました。でなければ問題を知ることにはならないからです」

 いつか自分の体も不調に襲われるかもしれない不安を抱え生きる彼らに、国が施すのは健康診断事業のみ。つまり病に侵されても個人で対処するしかないのだ。

 その一方で、自分の体は健康だ、遺伝的影響は「ない」、二世扱いされるのは迷惑だ、と考える人もいる。

「『二世=原爆』を背負わされることが嫌だ、と話す方もいました。自分が経験していない戦争、原爆と結び付けられてストレスを感じたり、重い過去とどう向き合えばいいのか分らない人もいると思います。どのような生き方、考え方が正しいとは言えません」

小山美砂さん

 差別もまた彼らを苦しめた。遺伝的影響への恐れから、結婚や就職の場面から遠ざけられ、あるいは生まれてくる子や本人の健康に対し配偶者や採用企業は負荷を負いたくないと考えた。

 実は、その意識は小山さんの中にも潜在的にあったことを本書で明かしている。自分は被爆二世と結婚し、子どもをもつことができるのだろうか――と。

「私も差別する側に立っていたと気付きました。いや、もしかしたらそれは私だけではなくて、この本で記した『私』は読者自身でもあるかもしれない。ならば自分のこととして感じ、考えていただけるかもしれない」

 小山さんは70年代にあった“被爆者を絶滅させる方法はないか”という優生思想に基づく議論を知り、自身の偏見差別の意識を重ねた。また、新聞記者時代に出会った、援護や手当を求め活動する被爆二世が、小山さんのテーマへの向き合い方に憤り、顕わにした厳しい声も記している。それは取材者としての至らなさを自戒するだけではない、被爆二世が社会に対し蓋してきた積年の思いだろう。

 本書は何かの「答え」を示すものではない。原爆放射線は遺伝的に影響があるのか、ないのか、判然としない世界で、目に見えないものに縛られ何かを奪われる生を生きてきた人たちの声を著者が束ね、ともに悩み歩いた記録である。

こやまみさ/1994年生まれ。毎日新聞記者を経て2023年独立。広島の「黒い雨」の被害を記録した『「黒い雨」訴訟』で第66回JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞受賞。カザフスタンの旧ソ連核実験場を訪れるなど核被害の取材を続ける。

ルポ 被爆二世 (集英社新書)

小山 美砂

集英社

2026年7月17日 発売