政権発足から1年。サナエノミクスは円安、物価高騰、金利上昇に対処できるのか。“ヘッジファンドのサムライ”の異名を持つファンドマネージャーの塚口直史氏と、経済学者で東京大学名誉教授の渡辺努氏が、今後の展望を語り合った。

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一か八かの出たとこ勝負では無責任

 渡辺 私は政権周辺の方に「日本列島を、強く豊かに」といった抽象的なスローガンではなく、財源を含めた経済政策のロジックを説明するべきだと伝えています。高市政権にはイメージ戦略ではなく、海外に向けて賢く上手に説明するストラテジーが必要なのではないでしょうか。

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ベッセント米財務長官から圧力をかけられた植田総裁と高市首相 Ⓒ時事通信社

 塚口 そもそも高市政権の経済政策は論理的でなく、力業です。たとえれば、穴のあいたバケツに水を入れ続けているだけ。穴をふさぐには金利を上げればいいのに、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に国債を買わせようとしたり、日銀総裁に国債買い入れを要請したりする。

 渡辺 高市政権は「責任ある積極財政」を掲げて選挙を闘い、それを国民が選んだわけです。その点は尊重しなければなりません。しかし、この政権の経済・財政政策の問題は、彼女の成長戦略が成功することを前提に進めている点です。AIや半導体分野などに投資することで日本経済は成長を遂げ、税収が増えて債務問題も解決する──。

 では、AIと半導体で、本当に日本が世界に伍していけるでしょうか。経済成長が実現しなかった場合に、どう別の手立てを打つべきかとの議論が全く行われていません。つまりプランBがない。一か八かの出たとこ勝負では無責任極まりない。プランBを用意した上での積極財政であるべきです。

『インフレの時代』などの著書があり、日銀出身の渡辺努氏 Ⓒ時事通信社

 塚口 プランBがないまま、希望的観測で突っ込んだのは、先の戦争と同じです。学生に金融リテラシー教育をするために、「開戦前夜」というゲームを作ったんです。1936年春から1941年冬にかけて、日米開戦を回避できるか、シミュレーションします。緊縮財政への転換を掲げる高橋是清蔵相に対し、軍部は軍事費拡大を要求する中で、内閣支持率を保ちつつ、どう金融・財政政策を打っていくか、各学生が閣僚の1人として対応するんです。

 当時の国債利回りは3.6%ほどで、「日銀引受」を選択するとゲーム内では9%まで金利が上昇する。これは財政リスクプレミアムを市場が織り込むためです。ところが、史実においては上昇しなかった。なぜなら、三井や住友などの銀行団が9割引き受けたからです。その原資は国民の預金です。預金が金利の水準を決めた歴史を覚えておくべきです。