京アニ事件が作品に与えた影響と「復活の日」

 この映画の舞台挨拶で全国を回る中、京都の劇場で主演の黒沢ともよが、シリーズ初期に『ユーフォニアム』のキャラクターデザイン・総作画監督を手がけた池田晶子氏に言及したという観劇レポートをネットで見た。そのことについて書いた公式なメディア記事はなく、ファンレポートの伝聞で勝手なことを書くのは控えようと思う。メディア取材が入る東京の舞台挨拶ではなく、京都という場所を選んで黒沢ともよがそれを語ったとすれば、それにはそうする必要と意味があったからなのだろう。

『響け!ユーフォニアム』に限らず、京都アニメーションの作品に昔から関わってきた声優たちは、2019年7月18日に起きた京アニ事件についてあえて直接的に語ることは少ない。

 今年行われた『涼宮ハルヒの消失』の再上映舞台挨拶でも、キョン役の杉田智和は軽妙なトークに終始し、ある女性声優がポツリと「映画の中と同じように、今日も雪が降りましたね」と言っただけだ。だが客席も含め、誰もが『消失』の監督である武本康弘がもうこの世にいないこと、その理由を知っている。黒沢ともよが京都の舞台挨拶で言葉を贈ったと言われる池田晶子も、そして『ユーフォニアム』の1期と2期を支えたアニメーターたちの何人かも、2019年7月に同じ場所、同じ理由でこの世を去った。

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『響け!ユーフォニアム』は今後、未来において多くの観客を獲得し続ける作品になるだろう。新しい未来の少年少女が、これがどれほど繊細に作られた物語なのか驚き、この作品と作り手たちについて知りたいと望むだろう。たぶんその時古い観客たちは、この作品の作り手たちに事件が与えた影響について、新しい世代の観客に語らなくてはならなくなるのかもしれない。

 2019年7月に作り手たちに何が起きたのか。人気シリーズだったにもかかわらず、なぜ第1・第2シーズンと第3シーズンの間に8年もの空白があるのか。吹奏楽部の高校生たちの青春を描いた、一人の人間も死なない物語が、なぜこれほど取り返しのつかない痛みとそれを乗り越える勇気に満ちているのか。古い観客たちはいつか、新しく若い観客たちに語り継ぐ日が来るのかもしれない。映画の中で一人の少女が語るように「今は未来のために種をまいている」時なのかもしれないと思うのだ。

2019年08月に宇治市観光センターに置かれていた、京都アニメーションへのメッセージがつづられたノート。奥の『響け!ユーフォニアム』のポスターには原作者・武田綾乃のサインも ©時事通信社

『響け!ユーフォニアム』公式から、10月11日22時にYouTube「京アニチャンネル」で『最終楽章 前編』の無料配信が行われるというアナウンスがあった。筆者はあなたにそれを見てほしいと思うし、無理なら多くの配信サービスで『前編』を見てから劇場で『後編』を見ることもできる。

 アニメーション作品として傑作であることは言うまでもない。だがそれ以上にこれは、取り返しのつかない深い傷と喪失を負った後でも、人間は魂の繊細さを回復することができるということを証明する作品であり、京都アニメーションの「復活の日」を高らかに宣言する、勇気に満ちた女性ヒーロー映画である。

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