泣かずにはいられない回になることは、予告の段階で予想していた。だが、そのハードルを大きく越えたのが『ファミリーヒストリー』の武井壮の回だ。この番組は家族の歴史を本人に代わって徹底取材し、そのルーツを探るドキュメンタリー。今回も江戸時代に生きた先祖が味噌奉行をしていたことを突き止める地道な取材力を見せつけ、「だから俺、味噌好きなのかな」と武井も漏らしていたが、この回に関しては、それが“本筋”ではなかった。「生き別れた母の行方」という副題の通り、9歳の頃に離れ離れになった母・京子の消息を辿ったのだ。
武井の子供の頃の家庭環境が過酷で、そこから抜け出すためにスポーツを始めたという話は、以前から度々語られていた。だが、今回は家族が“主役”。その背景をより詳しく知ることができた。家庭を顧みなかった父は離婚。「女に子どもなんか育てられるわけない」と子は自分で引き取ったものの、あまり家には帰ってこなかったという。武井はそれと知らされぬまま母と別れることになってしまった。印象的なのは、この番組中はもちろん、過去の番組等でもそんな親に対する恨み節を一切聞いたことがないことだ。
劇的なのは親との関係だけではない。俳優を目指していた兄・情との話も、それだけで番組が一本できるくらいだ。彼はVシネマにも出演を果たし、いよいよこれからという矢先、癌に侵され24歳の若さでこの世を去った。彼が付き人をして、深く濃い関係を築いた坂上忍も登場したが、放送で使われていたのは一言だけ。おそらくはもっと多くのことが語られたはずだが、泣く泣くカットしたのではないか。それは苦渋の決断だっただろうが、主眼に据えた母との物語をより際立たせていた。
彼女は番組が取材を始めるわずか2日前に亡くなっていたという。そして再婚をしていたことも番組は突き止める。その夫にコンタクトを取るが、最初取材は断られてしまった。しかし、1週間後、番組に協力したいと連絡があった。なぜなら、過去の武井の発言を検索しても、母に対して恨み言が一切書かれていなかったからだ。愛する人と幸せに暮らしたことを知り「心に突っかかっていた大きいトゲみたいなものがスッと取れた」と武井は嬉しそうに涙をこぼした。そして、彼女が亡くなった後、夫は家の片隅であるものを見つけたという。それは雑誌から切り取られた武井壮の写真。彼女は芸能人として活躍する彼の姿をずっと見守ってくれていたのだ。ディレクターのコメントによるとそれを知った武井は2分間話ができなくなるほど号泣したという。
人生すべてが報われる。そこに刻まれたのは、確かにそんな得難い瞬間だった。
『ファミリーヒストリー』
NHK総合 不定期放送
https://www.nhk.jp/g/ts/57RY735RG4/




