有名アーティストの興行でも沖縄ではなかなか売れない
――今回の告示後、小泉さんは沖縄に3回も応援に入り、7カ所で街頭演説をしました。「それなのに負けた!」というトーンで報道されましたが、安里さんはどんな評価をされていますか。
安里 進次郎さんは、2月の名護市長選でも3度入りました。4月の沖縄市長選でも応援に入っています。沖縄で首長選があるたびに本当によく入って頂けているなと感謝をしつつも、自民党はあまりにも沖縄であのカードを使いすぎていると思います。
有名アーティストの興行でも、他の地方ではチケットが完売するクラスなのに、沖縄ではなかなか売れないというケースが結構あるんですよ。その理由は何か。沖縄では、入場無料のイベントが多いんです。一流アーティストのライヴも無料で聴きに行ける。すると、次に金を払ってイベントに行こうとは思わなくなるものです。
それと同じで、小泉進次郎さんは、もう何回も沖縄に来ている。最近では毎年、しかも年に数回ですよ。テレビでしか見られないはずの「自民党のプリンス」が、沖縄では街頭でしょっちゅう見られる。握手もできる。余程の追っかけファンじゃなければ、「もういいかな」となります。自民党の使い方は、雑だなと思います。もったいない。
――今でこそ沖縄に頻繁に来る小泉さんですが、安里さんとは初当選して間もない頃から交流があったそうですね。
安里 10年ほど前、横須賀青年会議所のイベントに私が講師として呼ばれた際、「沖縄のことを教えてください」と挨拶に来たのが、今のような「人気者」になる前の進次郎さんでした。一参加者として来てくれたんですよ。たまたま、私の経営者仲間に、彼と同じ高校の野球部OBがいたので、その後、彼を通じて意気投合しました。
野党時代の1年生議員の頃は沖縄に来ると私が視察の案内役を務め、夜は一緒に酒を飲み明かした思い出もあります。(2010年に)私の友人が石垣市長選に出た時には、応援に来てくれた。開口一番、「安里さんに呼ばれてきた」と言って。うまいですよね。それが彼にとっての沖縄演説デビューとなりました。
なぜ全県選挙で保守系が4連敗したのか
――その後は、13年の参院選では久米島と八重山諸島、そして14年の名護市長選に来援。その時、初めて沖縄本島内でマイクを握って以来、県内の首長選では常連の応援弁士となっています。一方、小泉さんの父・純一郎さんは、辺野古移設計画を最終決断した時の首相です。選挙のたびに基地問題が争点になる中、いまだに「小泉アレルギー」を抱える有権者も少なくありません。それなのになぜ、「息子」には、沖縄で集客力があるのでしょうか。
安里 今回の沖縄県知事選には、本土から次々と応援に来ました。最終的な人数はわかりませんが、佐喜眞陣営では当初、「のべ250人の国会議員、地方議員が入る」と言われていました。いっぱい来ました。
我々、沖縄の有権者は「彼らがわざわざ沖縄に来る意図は何なんだろう」と考えさせられました。「沖縄の有権者を見ているんじゃなくて、安倍さんを見て応援に来ている」と、揶揄する声も上がっていました。うちの派閥は秘書を何回、何人派遣した、企業を何軒訪問した……。自民党の国会議員たちは企業の幹部の名刺を集めるのが目的で、「僕たち頑張っています!」という報告を、東京に帰って官邸にしたいんだ――そうとしか見えない議員もいたという情報もあります。
一方で、国会議員の訪問を受け入れる沖縄の経営者たちの中には、「大臣級が何人も支援要請に来るけど何をお話ししたらいいの? 沖縄の話をしてもあまり通じないよ」と、困惑している人は少なくありませんでした。「国会議員が企業訪問したら、票固めができる」というのは、あくまで“政治ムラ”の発想ですよ。
自民党の沖縄県連も例外ではありません。何かにつけて、「官邸が言うには……」「党本部によると……」と枕詞を付けて語り、沖縄県民を説得しようとする。有権者じゃなくて、上の顔色を窺って政治をしているせいです。沖縄では全県選挙(知事選、参院選)で保守系が4連敗しています。なぜ勝てないのか、そのあたりが原因のひとつだと思います。
そんな沖縄でも進次郎さんが人気なのは、彼らとは対照的に政府にも党にも言うべきことを言っているから。サイレントマジョリティーの心をくすぐっている。圧倒的多数の政治家が「偉い人がそう言うんだから黙れ!」と言うのに対して、進次郎さんは「みんなはこういうことを思っている」と代弁してくれる、自民党でたった一人の政治家だと思われています。