普段の街頭演説よりももっと目線を低く
――選挙戦序盤には、その小泉さんと菅官房長官が県庁前の広場で揃い踏みする場面がありました。あのキャスティングは、陣営幹部の間でも賛否両論があったと聞いています。なのに、小泉さんがマイクで「菅長官と私、街頭演説に初めて一緒に立ちました!」と、場違いなアピールをした。あれはすべっていました。陣営では5000人の動員を目指していたところ、実際に集まったのは3000人ほどにとどまりました。
安里 あれは進次郎さん云々というよりも、イベント自体のコアターゲットがどこにあったのか。コアターゲットに向かってメッセージを送るに当たって、偉い人を呼ぶ必要があったのか。そこに問題の核心があったと思います。
9月16日、23日と、いずれも連休の中日に同じ場所で開いたあのイベントが先に予定されてあって、そこに進次郎さんを入れることになった。もともとは、無党派層に対して訴えようと10代、20代が企画したもので、名称も街頭演説会ではなく、「オキナワ・ボイス・アクション」と工夫していました。
企画段階から手伝っていたボクから提案していたことは、「あさかぜ」(自民党特製の大型街宣車)の上から話すのは絶対ダメだ、と。「無党派層対策」だから、普段の街頭演説よりももっと目線を低くしなければならない。選挙カーの上から政治家が偉そうに話していることをよしとしない方々に集まってもらうのですから。ところが、陣営の上のほうの判断で、そうはならなかった。
一方、玉城デニーさんの街頭演説は、街宣車の上には絶対に乗らず、地べたに立つスタイルを徹底していました。マイクを持ちながら聴衆の目の前で語りかけるスタイルが良かったと思いました。
進次郎さんであれ、菅長官であれ、高いところから「自民党でござる!」という感じで、「あさかぜ」の上から「ふんどし」(応援弁士の名前と肩書きが大きく書かれた垂れ幕)を垂らしてしゃべる。私もあの現場におりましたが、あの光景自体が無党派層の目にどう映るか、心配しながら見つめていました。
そもそも、創価学会青年部が積極的に声をかけていたイベントでもあったので、聴衆の中には学会員も多かった。官房長官の「前座」としてマイクを持った創価学会員の学生たちが、聴衆たちにとっての「主役」でした。聴衆は学会の高校生が話した時には「うぉーー」と、すごい勢いで拍手するけど、進次郎さんがしゃべっている間でさえ、ぞろぞろと帰り始める光景が見られました。だから、もっとターゲットに合わせて話し方を工夫する必要があったと思いますね。
それでも一定の進次郎効果はあった
――本土のマスコミは「小泉進次郎が応援に入ると、その選挙で自民党が負けない」という不敗神話まで作り上げてきました。実際、「小泉進次郎効果」というものはあったのでしょうか。
安里 「小泉進次郎効果」というものは、政治に関心を持っていない方々、あるいは自民党と無関係の方に向けて、自民党系の候補者に触れる機会を作れる――ということです。ファーストコンタクトとして小泉進次郎の言葉を通じて伝え、話を聞いてもらえる環境を作るのには意味があるんですけど、そこから実際の投票につなげるプラスアルファの期待値を高めるには、結局は候補者本人の人柄次第なんじゃないかなという気がしています。保守系新人が当初劣勢だった2月の名護市長選で、革新系現職を倒せたのは、そのあたりが奏功したということです。
しかし、今回の県知事選でも、一定の進次郎効果があったがゆえに、佐喜眞陣営はある一定の無党派層を取りこめたんですよ。厳しいと言われていた、県都・那覇には3度も入ったおかげで、想定以上の得票を弾き出せたと思います。10~20代でも、佐喜眞さんがかなりの割合の票を取れた。ところが、革新系支持者の層が分厚い60代以上だけでなく、30、40、50代の票、そして女性票もデニーさんに持っていかれました。