〈政治家一族の「プリンス」中曽根康隆は沈黙する小泉進次郎をどう見たか〉から続く
沖縄県知事選で自民党の“敗因”として取りざたされた街頭演説がある。
それは、9月16日午後14時半頃から、那覇市の沖縄県庁前で始まった。選挙カーの上には、菅義偉官房長官と小泉進次郎氏の姿があった。
朝刊は発売と同時にコンビニから消えた
告示後初めての日曜日だったその日は、同県出身の安室奈美恵さんが芸能界を引退するメモリアルデーでもあった。那覇の中心街には、厚底ブーツにマイクロミニをまとうアムラーたちが闊歩していた。
演説する小泉氏の背後にそびえる地元新聞社の本社ビルには、マイクを持つ彼女の特大写真をあしらったビルボード。その1階には、長蛇の列ができていた。特製ポスター風の特別紙面に包まれた「引退の日」の朝刊を買い求めるため、臨時直売所に押し寄せた女性たちである。
早朝の発売と同時に那覇市内のコンビニから消えたという、その特別号の第20面には、小泉氏の来援を知らせる全面カラーの広告が載った。スーパースターと競わんばかりに等身大の顔面の横に大きく赤字で、〈小泉進次郎 沖縄へ!〉とある。
その広告には、実際の演説会で小泉氏と揃い踏みする菅氏の「ス」の字もなかった。ただでさえ、「官邸の言いなり」「政権とべったり」という悪評が候補者に直撃していることに嫌気が差していた地元の自民党関係者たちは、菅氏がもたらす官邸の威光よりも、小泉氏の登場による“解毒作用”に一縷の望みをかけていた。
「自民党県連があの広告を出すのに支払った額は、400~500万円と言ったところでしょう」
そう話すのは、県内で広告代理店や物流業など複数の企業を営むシンバホールディングス会長の安里繁信氏(49)。沖縄を代表する二代目実業家として日本青年会議所会頭を務め、仲井眞県政時代には県の観光行政を牽引する沖縄観光コンベンションビューローの会長職に抜擢された。最近では、ローカル局などでタレント活動も行う。
保守分裂を回避するために立候補を断念
そんな安里氏は、今回の知事選に真っ先に名乗りを上げた“幻の候補者”だった。
しかし、佐喜眞淳・宜野湾市長の擁立が官邸主導で進む中、安里氏は自民党県連の候補者選考に漏れた。その後も出馬の準備を続けていたが、翁長の死で情勢が激変。菅氏や二階俊博氏と協議し、保守分裂を回避するために立候補を断念したという。
沖縄経済界における「世代交代の象徴」とされてきた安里氏は、若い頃から山中貞則や野中広務ら往年の「自民党沖縄族」とも親交を重ねてきた。長らく稲嶺恵一元知事にも師事し、県内の選挙事情にも詳しい。
私は県知事選の直後、彼を訪ね、佐喜眞陣営の内外で問われた「小泉進次郎効果」について話を聞いた。10月10日発売の月刊『文藝春秋』11月号に10ページにわたって掲載されている拙稿「小泉進次郎『プリンス』はなぜ変節したか」の番外編としてインタビューをお届けしたい。
(聞き手・常井健一)