「まだ、だめ」
ジョニーがいくら懇願しても素知らぬ顔で野菜を切り続けた。カウチから転がり落ち、床に寝そべって泣きながら、ジョニーは人生のどん底を味わった。
その出来事の直後、ジョニーは、「島を出る」と、キッパー医師とデビーに告げた。アンバーが傍にいてはうまくいかないとわかった以上、ロサンゼルスに戻り、アンバーと離れて治療に専念するのがベストだと判断したのだ。アンバーにはこう頼んだ。
「ビバリーヒルズホテルのバンガローを取ってあげるから、そこに泊まってくれ」
ピンク色の外壁で知られるビバリーヒルズホテルは、昔からセレブに愛されてきた高級ホテル。中でもバンガロータイプの客室は、メインの建物の外にあるエレガントな一軒家のような造りで、プライバシーも保たれ、オプションでバトラーをつけることもできる。
ホテル内にはエステやマッサージを受けられるスパや、業界人がパワーランチに使うレストランもある。数日間、友達を呼んで楽しめばいいだろうと、ジョニーはアンバーに提案した。
「やってあげたことに対する感謝の気持ちはないの?」
アンバーは、その気遣いに感謝するどころか、
「私を捨てるのね」
「私がこれまであんたのためにやってあげたことに対する感謝の気持ちはないの?」
と、ジョニーを責め立てた。しかし、今回ばかりはジョニーも引かず、アンバーは渋々従った。
実際にはそんな状況だったのだが、後にジョニーは、アンバーの母ペイジの携帯に、「アンバーがいたから、アンバーだったから、これ(治療)を乗り越えられた。まずは彼女に、そしてあなたと(アンバーの父)デビッドに感謝したい」とメッセージを送っている。アンバーから酷い仕打ちを受けていても、彼女の両親にそれを打ち明けるつもりはなかったのである。
数日にわたる治療が終わってからも、ジョニーは定期的にキッパー医師の診察を受けた。また、キッパー医師の紹介で、アンバーにも専門の看護師エリン・ボーラムを付けてもらうことにした。アンバーのケアをしっかりしてあげ、心を落ち着かせる薬を与えてもらうことで、自分との関係が少しはマシになるのではないかとジョニーは期待したのだ。
依存症から立ち直るプロセスにおいては、患者のストレスはできる限り少ない方がいい。アンバーとの争いは、ジョニーにとって、大きなストレス以外の何ものでもなかった。
