「私は、あなたの遺書にも入ってないじゃない!」
ジョニーには思いもよらぬ言葉だった。自分たちは十分健康なのに、なぜここで遺書の話が出てくるのか。第一、結婚式はあまりにも慌ただしく行われ、遺書の変更をする時間などなかったのは、彼女自身にもわかっているはずではないか。
やがて罵声は暴力に代わり、アンバーはジョニーを殴り、平手打ちを喰らわせた。こうなったら、別の場所に逃げるしかない。
しかし、アンバーはどこまでも追いかけてくる。部屋に閉じ籠ればドアを激しく叩きながら喚き立て、ジョニーはまた別の部屋へ逃げる。
広大な豪邸の中をひと通り隠れたジョニーは、最後に残されたバスルームに入り、鍵をかけて床に座り込んだ。そこでようやくアンバーも諦めたのか、しばらくしてドアの向こうで足音がどこかへ遠ざかっていくのが聞こえた。
憔悴しきったジョニーは、アンバーが消えてしばらくすると、震える体を起こし、バスルームの外に出て、地下に向かった。そこには、あらゆる種類の酒を取り揃えたバーがある。
それまで何ヶ月もマリファナ以外のドラッグと酒を断ち、結婚式のシャンパンにすら口をつけなかったが、絶望状態に陥ったジョニーは、バーカウンターの椅子に座り、ウォッカをショットグラスに注いで、立て続けに2、3杯飲み干した。そうでもしなければやっていられなかった。
その時、階段を下りてくる足音が聞こえてきた。
「また飲んでいるのね! モンスター!」
何か液体がドブドブと溢れ出る感じがした
ジョニーが酒を飲む姿を見てアンバーはそう叫び、おもむろに近づいてきたかと思うと、ジョニーが開けたばかりのウォッカのボトルをつかみ上げ、投げつけた。ボトルはジョニーの顔の横をかすめ、背後で激しく音を立てて割れた。
そんなアンバーに辟易したジョニーは意地になり、取っ手のついた特大サイズのウォッカのボトルを取り出し、椅子に座り直すと、アンバーが見ている前で再びショットをあおった。
その姿に激昂したアンバーは、さらに激しい罵声を浴びせ、その大きなボトルを奪い取り、投げつけてきた。今度は、カウンターに置いていたジョニーの右手を直撃。ボトルは粉々に砕け、ガラスの破片が四方に飛び散った。
その瞬間、不思議と痛みはなかった。ただ、熱と、何か液体がドブドブと溢れ出る感じがした。恐る恐る自分の手元を見ると、右手の中指から骨が突き出していて、その先がなかった。
そして流れていた液体は自分の血だとわかった。頭の中は真っ白になった。なぜこんなことになったのか、理解できなかった。ひとつ確かなのは、こんな生き方はありえないということだった。もう生きていたくもないとすら思った。