文春オンライン

「謝ったら死ぬ病」という現代の社会病理

あるいはこの国の「裸の王様」について

2018/10/11
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昨今の政治と「ああ、やっちまったな」

 物事は、すぐに結果が出ることばかりではありません。経営でも建築でもコンテンツ開発でも、何か目標を設定し、取り組んでいく過程では外野の声が大きく聞こえることは確かにあるでしょう。夏に鳴く蝉のように、当事者ではない人たちが横から「それは失敗だ」「どうせうまくいかない」と半笑いで揶揄して来て仕事の邪魔をすることは往々にしてあり、それでも折れない心で立ち向かう人こそが、物事を完成に導くことができる側面はあります。気持ちの強さもトップに必要な要件であることは間違いないのです。

韓国では8月、BMW車両の出火が相次ぎ謝罪会見が行われた ©AFLO

 ただし、それは正しい努力をしている、間違いのない道のりを歩いている場合のみです。他人からの批判を受けながらも、結局は作り上げるのは自分です。「途中だけ見ていると文句をつけたくなるけど、完成してみたら良い出来だった」という結果が得られることは往々にしてあります。自分の仕事にこだわりを持ち、他人からの横やりにめげずやり遂げるのも必要だし、その辺は機微なんだろうなあと思います。

 昨今、政治が抱えるさまざまな政策審議で起きている事件の数々は、この手の問題意識の集大成とでもいえるものばかりです。何しろ、どの事件、事案も、外野から見て「ああ、やっちまったな」という内容ばっかりなんですよね。文科大臣が記者会見で定番の質問に乗せられて教育勅語の必要性について語り、通信ブロッキングは問題山積の状況を正面突破しようとしてにっちもさっちもいかなくなり、科学技術政策担当大臣がEM菌推進議連にいたりする。沖縄県知事選では野党が支持する玉城デニーさんが勝ち、ようやく移転した豊洲市場ではいまだに築地万歳のネタも沢山乱舞しています。何より肝心のアベノミクスも、いまやこれを評価して推進しようというまともな経済学者は本当にひとりもいなくなりました。本当に、ひとりも賛同者がいないと言える状況です。ヤバイと思うんですよ。そんな経済政策を堂々と推し進める政権って、さすがにちょっと危なくないですか。

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失敗の積み重ねがもたらすもの

 いつの間にか、増税前提で軽減税率の在り方を巡って、コンビニでは普通に食材を買うのは軽減税率で、イートインを使ってその場で食べるのは軽減税率が適応されないとか、ほんと意味が分かりません。何なんですか、これは。聞き及ぶ限りでは、なかなか状況の厳しい創価学会と公明党の間で綱引きがあって、「戦争法案」と揶揄された安保法制まで賛成させられた”与党”の代償として「生活必需品の増税は見送り」という意見に押されたのだとか。ほんまかいな。そんなら生活必需品に増税されたら負担に耐えられなくなるような世帯には直接給付したほうが軽減税率使ってみんな大混乱するよりはよっぽどコストが少なくやっていけるんじゃないかと思うんですが。

 それとも、物品税でも復活させますか。ボードウォークに建ってるホテルの手前で75ドル払うモノポリー的感覚でいますけど。

官邸HPより

 細々とした政策の失敗が積み重なっている安倍政権3期目ですが、それでもどうにかなっているのは景気が良いからで、まあまあ飯が食えて、就職したければそれなりに仕事がある状態なので、若い人が支持しています。仕事があるというのはとても大事なことです。ただ、景気が悪くなったらどうなるのか知りません。ようやく都市部も地方もどの産業も概ね人手不足の状況が行き渡ってきたので国民の賃金も上がっていくのかなと思ったら、人手不足の産業界がワーワー言った結果、政府が外国人受け入れ政策を「大転換」することになってしまいました。新たな在留資格を創設して、単純労働の分野でも労働者として正式に受け入れるそうです。もうね、賃金上昇は大事なファクターだってみんな分かってるのに、低賃金で働く労働者を海外から入れるのを促進しましょう、って、それまたデフレになるじゃねーか。それに、何よりも受け入れ準備とか社会的コストとか全然考えてないよね。地方経済を回す大事な要素として外国から来た労働者を使わざるを得ないというのは分かるけど、どうやって彼らを遇するの。日本人の数が減り、若者が地方からいなくなって、景気が良いから都合よく安価な労働力と入れてきて、そのあとのことを考えていないのではないか、と。