インテリっぽい優男が好みだった
同じ2年生の優等生組のほうは、新しく赴任してきた男性教師が受け持った。自叙伝『生きて行く私』では「佐伯」、他の書物では「牧野」「篠田」などという名でも登場してくる人物。代用教員の千代とは違って師範学校卒の訓導(正規教員)である。
男にしては色白で、キザな金縁眼鏡をしたインテリっぽい優男(やさおとこ)。それが、千代のタイプのようである。ストライクゾーンのど真ん中。色黒のコンプレックスに悩んできた影響だろうか、色白の肌には憧れる。
同僚の男性教員と初対面で…
教員室で初めて会って紹介されたときにはもう恋に落ちていた。この後も、千代の恋はいつもこのパターン。出会った瞬間にひと目惚れして恋の虜(とりこ)になる。仕事もなにもかも忘れて、好きな男のことだけに没頭する。
未婚の男女がふたりだけで会うのは不道徳とされていた時代、一般社会でも男女のつき合いには細心の注意が必要だった。教師ならなおのこと、生徒たちの手前へんな噂が立たないよう細心の注意を払わねばならないのだが。恋に落ちた千代に自制を求めるのは無理だ。人目など一切気にせず好きな男のもとにまっしぐら、果敢なアプローチを開始する。放課後には散歩に誘って村の神社を一緒に歩き、夜には同じ集落にある男性教師の下宿に手料理を持って行ったりする。相手のほうもまんざらではなさそうで、鼻の下を伸ばしてデレデレと千代に寄り添う。
相手にも好かれ「恋は盲目」状態に
相手が好意を向けてくるようになると、ますます恋の深みにはまり込む。一時も離れたくない。授業中も考えるのは恋人のことばかり、子供たちに教科書を黙読させて、自分はその間にのろけた恋文を書き綴る。休憩時間にその手紙を生徒に持たせて、隣の教室にいる男性教師に届けさせた。こんなことをやらかせば、現代でも大問題になるだろう。
千代と男性教師の急接近は、まわりの者たちもすぐに気がつく。学校中の噂になり、やがて村人たちにも知れ渡るようになった。畦道でよく出会う千代に見惚れていた村の若者たちも、いまでは「やっぱり、そんな女だったか」と侮蔑の視線を投げかける。