恋した男に見てもらいたかった

解雇は仕方がないと千代は納得している。それだけのことをやらかしたという自覚はあり、校長や学校に恨みはない。派手な化粧や服装も意趣返しが目的ではなかった。

「ただ、あの先生に一目だけ会いたい、会ってあの人に、『何て可愛い人だ。ほんとにきれいな人だ。』と思われたい一心で」(『私のお化粧人生史』)

愛した人ともこれでお別れになるのだから、自分のいちばん綺麗な姿を彼の目に焼きつけておきたいという、いじらしい乙女心だったのだが。最後の願いも叶(かな)わず、誰もいない夜道をひとり寂しく歩いて村を出てゆく。足が重くて歩くのが億劫になってくる。これまで幾度も歩いた川西の実家までの8キロの道程が、一番遠く辛く感じられるのだった。

青山 誠(あおやま・まこと)
作家
大阪芸術大学卒業。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。著書に『ウソみたいだけど本当にあった歴史雑学』(彩図社)、『牧野富太郎~雑草という草はない~日本植物学の父』(角川文庫)などがある。
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