『ファンタ爺のめざめ』

 著書『アウト老のすすめ』が続々重版のヒット作となったみうらじゅんさんが、その続編にあたる『ファンタ爺のめざめ』を上梓した。老後の不安を吹き飛ばし、日常をエンタメに変えるヒントが満載の本書から一部を抜粋し、紹介します。

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遠くなった耳に優しい“手元スピーカー”

 洗濯物を畳むのは居間、テレビの前で行うことに決めている。テレビに夢中になっているようでは、作業がスムーズに行えないので、テキトーな番組がいい。

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 要するにテレビはついていればいいのである。

 “オールドメディア”などと呼ばれるようになって久しいが、こっちもすっかりオールドピープル。難点といえば耳が遠くなったことだ。テキトーな番組でも、やはり何を喋っているかは聞きたい。“手元スピーカー”という商品を買うまでは、爆音で見てた。洗濯物の横にそれを置くのも今ではルーティーンとなった。

 しかし、1ヶ月ほど前、たまたまつけたテレビ(TOKYO MX)で、僕が小学生の時に始まったドラマ『銭形平次』のテーマ曲が流れていて、思わず手元スピーカーのボリュームをフルに上げた。

 “男だったぁーらぁー♫”

 当時、特に好きだったわけじゃない時代劇。夢中で見てたのは親とおじいちゃんだ。

 しかし、なつかしさってやつは全てを好きに変えてしまうらしい。以来、その放映時間に合わせ洗濯物を畳むようになった。

 それでは作業が捗らないんじゃないか?

 当然、心配はしたがテキトーに見てるのは同じ。ラスト、銭形平次の得意技、つーかその名の由縁、悪者に向けて銭を投げつけるシーンになると少し、手を休める。

 それにはなつかしさだけではなく、小学生ならではの思い出があるからだ。

「なぁ、あの投げた後の銭、どうしてはるんやろ?」

 僕がずっと不思議に思ってたこと。

 ある日、おかんに聞いたら、「どうしてはる? って、あんた、拾いに行ってはるに決まってるがな」と、あっさり言った。まるでそんなシーンがあったかのような堂々とした口振りに、「それはないやろ、カッコ悪過ぎやん!」と、返すとおかんは真面目な顔つきで、「あんたもお金は大切にせなあかんで、分かってるか?」と、説教モードに入った。

「いや、そんなことと違ごて、ホンマに拾いに行ってはるんかいな?」

「すぐには行かはらへんよ、しばらくしてからや」

「しばらくしてからって、何やそれ」

 僕が呆れた口振りで言ったもんで、おかんはこう切り返した。