著書『アウト老のすすめ』が続々重版のヒット作となったみうらじゅんさんが、その続編にあたる『ファンタ爺のめざめ』を上梓した。老後の不安を吹き飛ばし、日常をエンタメに変えるヒントが満載の本書から一部を抜粋し、紹介します。
◆◆◆
遠くなった耳に優しい“手元スピーカー”
洗濯物を畳むのは居間、テレビの前で行うことに決めている。テレビに夢中になっているようでは、作業がスムーズに行えないので、テキトーな番組がいい。
要するにテレビはついていればいいのである。
“オールドメディア”などと呼ばれるようになって久しいが、こっちもすっかりオールドピープル。難点といえば耳が遠くなったことだ。テキトーな番組でも、やはり何を喋っているかは聞きたい。“手元スピーカー”という商品を買うまでは、爆音で見てた。洗濯物の横にそれを置くのも今ではルーティーンとなった。
しかし、1ヶ月ほど前、たまたまつけたテレビ(TOKYO MX)で、僕が小学生の時に始まったドラマ『銭形平次』のテーマ曲が流れていて、思わず手元スピーカーのボリュームをフルに上げた。
“男だったぁーらぁー♫”
当時、特に好きだったわけじゃない時代劇。夢中で見てたのは親とおじいちゃんだ。
しかし、なつかしさってやつは全てを好きに変えてしまうらしい。以来、その放映時間に合わせ洗濯物を畳むようになった。
それでは作業が捗らないんじゃないか?
当然、心配はしたがテキトーに見てるのは同じ。ラスト、銭形平次の得意技、つーかその名の由縁、悪者に向けて銭を投げつけるシーンになると少し、手を休める。
それにはなつかしさだけではなく、小学生ならではの思い出があるからだ。
「なぁ、あの投げた後の銭、どうしてはるんやろ?」
僕がずっと不思議に思ってたこと。
ある日、おかんに聞いたら、「どうしてはる? って、あんた、拾いに行ってはるに決まってるがな」と、あっさり言った。まるでそんなシーンがあったかのような堂々とした口振りに、「それはないやろ、カッコ悪過ぎやん!」と、返すとおかんは真面目な顔つきで、「あんたもお金は大切にせなあかんで、分かってるか?」と、説教モードに入った。
「いや、そんなことと違ごて、ホンマに拾いに行ってはるんかいな?」
「すぐには行かはらへんよ、しばらくしてからや」
「しばらくしてからって、何やそれ」
僕が呆れた口振りで言ったもんで、おかんはこう切り返した。
