娘が生まれたことをきっかけに、組を抜ける決断をした元極道の男。髪型を戻し、入れ墨と小指がないことを隠しながら必死に真面目な勤め人としての生活を送り始めていた。そんなある日、お風呂で娘から「パパはどうして小指がないの?」と尋ねられ……。

 現在はNPO法人代表として「生き直し」の道を歩む佐藤智明氏がとっさにひねり出した「優しい嘘」とは? 新刊『先生は、元極道 元極道講師が子どもたちのために歩む 人生「生き直し」物語』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目)

最愛の娘と(写真:本人提供)

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娘の誕生

 結婚から数年経ち、ついに子どもができました。女の子でした。僕は子どもを授かったことで、このまま極道を続けるべきか、迷うようになりました。

 極道は親分のために我が身を捨てる覚悟がなければ務まりません。極道を続けていたら、きっと組織のために長い懲役に行く場面も出てくるでしょう。

 そんなとき、僕は妻や娘を置いて懲役に行けるだろうか。それはできない、と思いました。僕は悩んだ末、組を抜けることにしました。

 先輩組員には相談しにくかったので、ひとりで悩んで出した結論でした。総長のところに行き、思い切ってこう切り出しました。

「子どもを授かりましたので、足を洗わせてください」

 総長は静かにうなずくと、何かの足しにしろと30万円を渡してくれました。僕は総長の優しさに改めて感謝するとともに、一生懸命汗をかき真面目に仕事をして幸せな家庭を持つことを誓いました。

 それから僕はパーマを落とし、髪型をストレートにして、千葉県にある妻の母の実家で、僕と妻、娘、そして妻の母の4人で暮らし始めました。

 新聞の求人広告で勤め先を探し、生まれて初めて面接を受け、塗装工場に雇ってもらえることになりました。入れ墨と、小指がないことを隠し、毎日電車とバスを乗り継いで工場に通い、懸命に働きました。初任給では、妻に指輪を買いました。当時の楽しみは、毎日娘とお風呂に入ることでした。公園や、たまにディズニーランドへ行ったりもして……、娘もすくすくと育ちました。

 あるとき、娘とお風呂に入っていると、だいぶ言葉を覚えた娘から「パパはどうして小指がないの?」と聞かれました。