オーディションで「鬼太郎として笑ってください」と言われ…

『ゲゲゲの鬼太郎』の配役を決めるためオーディションが行われ、主人公の鬼太郎役にはある声優と野沢の二人が最終審査まで残る。このとき、制作側の東映動画のプロデューサーは野沢を推したのに対し、テレビ局側のプロデューサーはもう一人を採用するつもりだった。たいていの場合、最終的な選択は局側に委ねられたため、野沢は選ばれない可能性が高かった。

 だが、彼女は思わぬ形で役を得ることになる。審査員から「鬼太郎として笑ってください」と要求され、野沢が見事に応えたのに対し、もう一人は「妖怪の笑い方なんてわからない」と答えるしかなく、あえなく落選したのだ(『日経ビジネス・アソシエ』2008年10月21日号)。もっとも、野沢が選ばれた理由はそればかりでなく、原作者の水木しげるの推薦も大きかったという。

 最終的に決まったメインキャストには、目玉おやじ役の田の中勇、ねずみ男役の大塚周夫(ちかお)と、同じ劇団出身のメンバーがそろい、野沢は勝手知ったる相手とあって演技を合わせやすかった。おかげで、それまで自分らしく演じられないのがストレスだったのが、『ゲゲゲの鬼太郎』は演じるのがすごく楽しくて、自分に合っていると思ったという(前掲、「otocoto」)。

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1968年放送開始の『ゲゲゲの鬼太郎』第1シリーズ

 野沢が、自分はプロの声優だと胸を張って言えるようになったのには、ファンのおかげというところもあるようだ。

 あるとき、主演するアニメ番組(どの作品なのかは不明)宛てに一人の男の子から届いたファンレターには、「僕の宝物をあげます」というメッセージとともに牛乳瓶のフタが同封されていた。これを見た野沢は、この子はそれほどまでに自分のことを親しい友達のように思ってくれているのだと感激し、《そのときに、『声優というのは、なんてすてきな仕事なんだろう』って思った》という(『AERA』2019年1月14日号)。

2013年撮影 ©文藝春秋

ショックだった『鬼太郎』の交代

『ゲゲゲの鬼太郎』では1971年から翌年にかけて放送された第2期でも、鬼太郎役を務めた。だが、1985年から3年にわたり放送された第3期では同役は戸田恵子に交代する。

 野沢はそれまでにも、自分が演じていた役が新しいシリーズで別の声優に変更されたり、反対に自分が替わって役を引き継ぐということをたびたび経験してきた。それでも、さすがに鬼太郎は自分でもハマり役と思っていただけに、ショックを受ける。