『ドラゴンボール』との運命の出会い
しかし、このことは結果的に、新たなハマり役との出会いを生む。それが『ドラゴンボール』の孫悟空だった。同作を放送するのは『鬼太郎』と同じフジテレビ。同局では当時、同じ時期に放送されているアニメで主演できるのは一人の声優につき1作だけというルールがあった。したがって、野沢がもし『鬼太郎』3期でも鬼太郎を演じていれば、その放送中にスタートした『ドラゴンボール』にはオーディションさえ受けさせてもらえなかったことになる。
『ドラゴンボール』ではシリーズが進むにつれ、悟空だけでなく、その息子たちである悟飯と悟天と3役を演じることになる。一人の声優が複数の役を演じる場合、録音を人物ごとに分けて行うのが一般的だが、野沢は3役とも一緒に録り、瞬時に声を変えながら、見事に演じ分けている。
《無意識に切り替わると言うのが、最も感覚に近い表現でしょうか。彼らはそれぞれ生い立ちが違いますから、もちろん性格も違います。そのキャラクターづけができているので、顔を見た瞬間に自然とその声が出てくるんです》(『日経ビジネス・アソシエ』前掲号)
もっとも、これ以前に『もーれつア太郎』(NET系、1969~70年)で13役を演じたことがあったというから、野沢にはわけないことなのかもしれないが。
役作りはしない、頭に入れるのは最低限の情報だけ
驚くべきことに、野沢は声優の仕事でとくに役作りをしたことはないという。原作マンガも、前もって先の展開がわかってしまうと驚きがなくなって嫌だという理由から読まないようにしている。
そのなかにあって、彼女が演じるうえで手立てとしているのが、日頃からの人間観察であり、上記の発言にも出てくる「キャラクターの生い立ち」である。これについて彼女は別のところで次のように説明している。
《私が頭に入れるのは、そのキャラクターが育った家庭の状況、貧乏だったのか裕福だったのかなど生活環境に関する最低限の情報だけ。あとは絵をジッと見て、絵が動き出した瞬間に役に入りこんで一体化して「声」になる、これは持って生まれた感覚なんです》(『日経エンタテインメント!』2014年3月号)
「持って生まれた感覚」というが、彼女は果たしてどんな生い立ちからこの感覚を身につけたのだろうか。次の記事(#3)ではそのあたりを探ってみたい。(つづく)
