声優の野沢雅子がきょう10月25日、90歳の誕生日を迎えた。言うまでもなく、テレビアニメの草創期から60年以上にわたって声優を務める大ベテランであり、レジェンドというべき存在だ。昨年(2025年)には声優として初めて文化功労者に選ばれている。(全3回の1回目)

 野沢をレジェンドたらしめているのは、まず何より、役と一体化していると思わせる演技力だろう。これについては同業者も感服するほどだ。

2024年、第71回菊池寛賞授賞式での野沢雅子さん ©文藝春秋

「彼女は鉄郎ちゃんでしかないの」

『銀河鉄道999』(フジテレビ系、1978~81年)で謎の美女・メーテル役を務めた池田昌子(今年3月に87歳で死去)は生前、相手役の少年・星野鉄郎を演じた野沢との共演を振り返り、《暗いスタジオの中で芝居していると、彼女は鉄郎ちゃんでしかないの。だからパッとライトが点いて、横を見ると「あぁ女の人なんだ」って(笑)。それくらい錯覚を起こすほどうまい人だし、相手役にも恵まれたなって思いますね》と評していた(『キネマ旬報』1998年3月下旬号)。

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『銀河鉄道999』アフレコ現場での(左から)池田昌子さん、野沢雅子さん、肝付兼太さん

 野沢が主人公・孫悟空を演じる『ドラゴンボール』シリーズ(フジテレビ系)の原作者の鳥山明は、「悟空を描いているときに野沢さんの声が聞こえてきて、原稿がポンポン進むんです」と対談で本人に直接伝えたという。ちなみに悟空のおなじみのセリフ「オッス、オラ悟空!」は、野沢のアドリブから生まれたものだ。

『ドラゴンボール』は1986年に初めてテレビアニメ化されて以来、現在放送中の『ドラゴンボール超(スーパー) ビルス』まで8シリーズがつくられている。最初は少年だった悟空も、シリーズが続くうちに成長して子供も儲けたが、演じるのは野沢のまま変わらない。成人した男性を女性声優が演じるのは稀有だろう。

放送中の『ドラゴンボール超 ビルス』(アニメ「ドラゴンボール」公式X@DB_anime_infoより)

 野沢が演じてきた役は幅広い。『ドラゴンボール』の放送が始まった頃には、『愛少女ポリアンナ物語』(フジテレビ系、1986年)で主人公の叔母であるパレーという大人の女性を演じ、当時小学生だった筆者も、これを悟空と同じ人がやっていると知って驚いたものだ。それ以前にも、『あらいぐまラスカル』(フジテレビ系、1977年)では、主人公のスターリング少年に育てられるアライグマのラスカルを鳴き声だけで見事に演じきった。

 それでも野沢というとやはり少年役のイメージが強い。筆者が子供だった40年ほど前には、テレビ各局は毎日、夕方から夜にかけてアニメを放送していた。再放送も多く、子供からすれば最新の作品と同列に、当時からすれば10~20年ほど昔の作品も楽しんでいた。そのなかでも彼女がメインキャラクターを演じた作品は『いなかっぺ大将』『ガンバの冒険』『怪物くん』『まいっちんぐマチコ先生』などなど枚挙にいとまがなく、務めるのもほとんどが少年役だった。