アニメの少年役を女性声優が演じることを奇異に感じる人は、ほとんどいないだろう。しかし、ここにいたるまでには歴史的な経緯があった。これについては、石田美紀『アニメと声優のメディア史 なぜ女性が少年を演じるのか』(青弓社、2020年)という本にくわしい。

 同書によれば、子供の役への大人の俳優の起用は、敗戦直後の占領期にラジオドラマで始まったものだという。その背景には、労働基準法の制定により、午後8時以降は満15歳未満の子役を起用できなくなったということがあった。

 1950年代に人気を集めたNHKラジオの連続放送劇『ヤン坊ニン坊トン坊』では、子ザルの3兄弟を黒柳徹子ら女優が演じている。こうした女優の起用は、同時期に本放送が始まったテレビでも人形劇などで踏襲された。

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 草創期のテレビでは民放を中心に、アメリカをはじめ海外から大量に輸入されたテレビ映画とテレビアニメが放送されていた。そこではセリフの日本語吹き替えを舞台俳優が担うことが多かった。

野沢雅子が少年役を演じるようになった理由

 野沢雅子も高校時代より所属する「劇団東芸」の劇団員として、テレビ草創期よりドラマに出演し、その流れからテレビ放送用の洋画の吹き替え(アテレコ)の仕事を始めた。最初に演じたのは、アメリカ先住民の少年役だった。

 当時のテレビ番組はほぼすべて生放送で、洋画も放送中にセリフを吹き替えていた。少年役を子役ではなく大人の俳優が演じることになったのには、生放送で子供が演じるのは難しいという理由もあったようだ。かといって男性俳優では声が合わない。

《「なら大人の女性にやらせればいいんじゃないか」ってプロデューサーが考えたんですね。それで私が劇団からオーディションに行かされ、幸か不幸か、受かっちゃったんです》と野沢は振り返る(『週刊文春』2012年10月11日号)。本人は「幸か不幸か」と言うが、その後の日本アニメの発展にとっては幸運だったと言うほかない。

2013年撮影 ©文藝春秋

 それからというもの、彼女は洋画の吹き替えに次々と駆り出された。最初の役がそうだったせいか、その後も少年役が多かったようだ。