2014年に刊行された椎名誠さんの『ぼくは眠れない』(新潮新書)は、椎名さんの35年にわたる「不眠」との闘いの告白書だった。当時、椎名さん70歳。精力的に執筆活動を展開し、映画を撮り、ビールを欠かさず、仲間たちと旅や探検や遊びに打ち込んできた椎名さんの“タフガイ”的なイメージと不眠は、いささか乖離しており、世の椎名ファンを驚かせた。あれから12年。椎名さんは、不眠とどう向き合ってきたのだろうか。

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ぼくの睡眠薬初体験

〈椎名さんと不眠とのつきあいは50年近く前、34歳の頃に遡る。当時椎名さんは流通の業界誌を刊行する出版社のサラリーマン。全国を飛び回ってバリバリ働き、すでに取締役編集長という立場だった。〉

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 そう、我ながらよく働き、よく飲み、そしてよく寝ていた時期です。

精力的な活動のいっぽう、人知れず不眠に悩んでいた ©文藝春秋

 ただ、当時はヘビースモーカーだったせいもあるんでしょうが、年に二度ほど、扁桃腺を腫らして高熱を出し、数日会社を休むことがあった。で、あるときその症状でいつもの病院に行ったら、「そんなに扁桃腺を腫らしてると腎臓を悪くしますよ」と言われたんです。

 扁桃腺と腎臓? はて? と思いつつ家に帰って「家庭の医学」みたいな本を引っ張り出して腎臓病の項を読んでると、足のむくみとか背中の痛みとか、なんだか思い当たる節がないでもない。そういや最近食欲がないし便秘だし、オレとしたことがきのうはあまり寝られなかった。ひょっとして腎臓が悪いのか。とどめに、腎臓病は悪化すると重篤な症状を呈すると書いてある。

 これはエラいことだ……!

 オレは入院する必要がある!

 いや、我ながらバカみたいですが、ちょっと働き過ぎでノイローゼ気味というか、それまで健康すぎたんでしょう(笑)。それに、ぼくは本来心配性で、神経も細いんです。そういう人間にとって、「家庭の医学」はわりとあぶない本です。

 で、「入院入院」とわめき出したぼくを、妻は賢明にも精神科に連れて行った。「眠れなかったらこれ飲んでください」と薬を処方され、家に帰された。夜、その薬を飲み、たっぷり10時間眠りました。ビックリするくらいの効き目でした。

 翌朝の寝覚めはきわめて壮快。それがぼくの睡眠薬初体験です。週明けからは元気に出社しました。そりゃそうですよね。扁桃腺を腫らしてただけなんだから。