10月19日、作家の小林信彦さんが93歳で死去した。幅広い著述活動の中で、映画評論においても際立った存在感を放った小林さんが選ぶ、戦後世界の名作とは。小林氏が月刊文藝春秋に2022年に寄稿した「外国映画ベスト50」から、一部紹介します。

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宮崎駿と黒澤明の憧れた映画

「姉妹と水兵」(44・米)
 マイ・ナンバー・ワンともいえる。私だけではない。試写を見た双葉(十三郎)さんが「最近公開のアメリカ映画中、これだけ見ていてあきない作品はない」と書いておられる(『外国映画 ぼくの500本』)。

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 ジューン・アリスンとグロリア・デ・ヘヴンの姉妹と老芸人ジミー・デュランテの人生に、ハリー・ジェームスその他の芸、芸人がからむ物語。モテ男もヴァン・ジョンソンだから気にならない。MGMミュージカルには、こういう作品もあったのだ! 歌と笑いで疲れてしまうほど大満足。

小林信彦さん ©文藝春秋

「荒野の決闘」(46・米)
 親類の人間がラバウルで米軍の捕虜になり、日本に帰ってきて、これを神田日活で見た。

 有名なOK牧場の決闘の話だが、「あのヘンリー・フォンダを見て、日本が敗けるはずだと思った」と言う。

 主役(ワイアツト・アープ)のヘンリー・フォンダが有名な〈フォンダ・ウォーク〉を見せる。対立するのがヴィクター・マチュアだが、これ、また、よろしい。宮崎駿がこの映画のファンで、黒澤明は〈映画の手本〉と語っていたという。私はジョン・フォードが編集した版とプロデューサーが編集した版の二つを持っていて、気分が荒れた時に見る。最後の「クレメンタインって名前、大好きです」というヘンリー・フォンダの名台詞で落涙。本当に良い映画って、これだ。

「イースター・パレード」(48・米)
 日比谷映画で見て、何十年かのちに妻と子供二人をつれて、また日比谷映画で見た。

 たしか主演のジーン・ケリーが怪我をして、大プロデューサー、アーサー・フリードがアステアを起用した。だから、アステアがうれしそうに出てくる発端がわかる。相手はジュディ・ガーランドだから文句なし。

 アステアで、カラー映画だから良かった。「乞食の夫婦」という曲なんて、今だに英語で歌える。

「第三の男」(49・英)
 キャロル・リードの名を高めた芸術スリラーの傑作。この映画で初めて知られたツィターという楽器の音につれて、光と影の芸術が展開する。

 そして悪役がいい。オーソン・ウェルズの名を高めたが、悪い人間が集まっている絵で、三番目の男が怪しいとくれば、オーソン・ウェルズに決まっている。「市民ケーン」がまだ見られなかった日本ではオーソン・ウェルズはこの映画で知られた。主役のジョセフ・コットンとの関係なんて、「市民ケーン」以来なのだね。

 アリダ・ヴァリがジョセフ・コットンを無視して通り過ぎてゆくラスト・シーンまで、アントン・カラスのツィターの音が映画を左右していると思う。この音は、ウィーン(ロケ地)でキャロル・リードがひろったのだそうだ。