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廣岡大志をスターに育ててこそ「ヤクルト」なんじゃないか

 そもそもヤクルトのドラフト戦略で気になったのは、最初の1位入札で根尾を指名したことから始まっている。根尾の資質は疑いようがない。根尾ほどの身体能力と技術と頭脳を兼ね備えたドラフト候補が、今までいただろうか。おそらく誰が指導者でも、自分で考えて勝手にうまくなってくれる。さらに模範的な取り組みでチームメートにも好影響を与え、チームの顔になれる選手だろう。

 だが、本当にヤクルトが獲りにいくべき選手だったのだろうか。引っかかったのは、廣岡大志の存在だ。これまでヤクルトという球団は、「これは」という選手にポジションを与えてきた。たとえ主力がFA宣言をして抜けても、有望な若手を我慢して起用して一流へと育ててきた。球団の経営規模や育成環境からいっても、同世代の有望株をぶつけ合って競争させるよりも理にかなっているはずだ。

 小川淳司監督がシニアディレクターを務めていた頃、高卒新人だった廣岡について熱っぽく語ってくれたことが忘れられない。

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「すごい選手が入ってきましたよ。フリーバッティングを見てもモノが違うよ」

 今季、廣岡はレギュラー獲りに失敗し、27歳の西浦直亨が中心的に起用された。とはいえ、廣岡が持つスター性、存在感は天性のものと言っていいだろう。一部首脳陣からは思考面を疑問視する声があがっていると聞くが、廣岡のような素材を一流に育ててきたからこそ、ヤクルトは大資本を擁する球団と渡り合えてきたのではないか。もちろん、根尾を遊撃に据え、廣岡を他のポジションにコンバートするつもりだったのかもしれない。とはいえ、「ウチの未来は三塁・村上宗隆、遊撃・廣岡大志に預けた」という姿勢を見せてもよかったのでは、とも思える。

 ドラフト会議とは、球団の未来をファンに宣言する場でもある。根尾を指名した瞬間、私はヤクルトの球団としての個性、伝統が揺らぎはしないかと心配になった。

2位中山、4位濱田も楽しみ

 しかし、同時に指名選手の顔ぶれを見て、楽しみを覚えたことも伝えておきたい。

 2位の中山翔太(法政大)は「きんに君」の愛称で、体脂肪率11%の筋肉ばかりに注目が集まりがち。だが、私はこの選手のキモは泥臭さを厭わない懸命さにあると見ている。たとえ不格好であろうと、守備も走塁も手を抜くことはない。見ていて心を揺さぶられる選手だ。やや力任せに見えるスイングがいい意味でほぐれてくれば、一軍戦力になるはず。きっとチームに魂を吹き込み、ファンから愛される選手になるだろう。

 4位の濱田太貴(明豊高)も早く見てもらいたい選手だ。この選手の素晴らしさは、スイングをひと振り見てもらっただけで伝わるはず。悠然と呼び込み、ヘッドをしならせてボールを捉えるスイングは惚れ惚れする。かつてのホームラン王・山﨑武司さん(元楽天ほか)に「ケチをつけられないくらいバランスがいい」と言わしめたほどだ。4位指名ではあるが、次世代の外野のレギュラー候補になるだろう。

 最後に注目したいのは今年の12球団ドラフト最下位指名選手だった8位の吉田大成(明治安田生命)である。ディフェンス能力に優れた遊撃手で、貴重な内野のスーパーサブになる可能性がある。明治安田生命といえば待遇のいい企業として有名。安定を捨て、初めて明治安田生命からプロに進む吉田の挑戦を応援したい。

 多くの指名漏れ選手がいるなか、プロ野球選手になれただけでも素晴らしいことだ。だが、当然のことながらドラフト会議はゴールではなく、スタートである。あるスカウトはこう言っていた。

「アマチュア時代のままで通用する選手なんてほとんどいない。いかにプロでうまくなれるかですよ」

 現時点で素材を評価されていても、磨かれなければ原石のままだ。ヤクルトにドラフト指名された支配下登録8名、育成枠2名の健闘を祈りたい。

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