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 自分が負ける試合はしない、勝てるところにだけ行くという人もいます。大迫選手の実力なら、日本選手権で勝ち続け、日清食品のランナーとして駅伝で活躍しつづけることでサラリーを得ることもできたでしょう。それでも大迫選手は決してトップに安住することなく、戦いを挑み続け、ついにオレゴンプロジェクトの正式メンバーとして認められることになります。彼の強さは自ら環境を変え続けることによって進化してきた歴史でもあるのです。

日本新の理由2「“体つき”の明らかな変化」

 我々が日本記録を確信した2つ目の理由は大迫の「身体の変化」です。

 箱根駅伝時代から「大迫はトラックなら速いけど、長い距離は難しいよね」という関係者も多かった。そんな心無い外野の声も彼の耳には入ってきてたでしょう。ここでまた彼の負けず嫌いの性格が発動します。「勝手に自分を決めつけないでほしい」とばかりに、常に課題をみつけては改善をしていくのです。

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©EKIDEN News

 これまでも疲れてくると、ストライド(歩幅)が伸びなくなり、上に跳ねることで走りにロスが出ることが課題でした。トラックのスピードやフォームを活かしたまま、フルマラソンを走りつづける身体を作り上げること。この課題にじっくりと取り組み、ボストン、福岡国際マラソンと、ステップアップしてきた大迫選手の走りでしたが、今年の7月に北海道士別で行われたホクレン・ディスタンスチャレンジというトラック・レースに現れた大迫選手は明らかにシルエットが違っていた。身体や胸板は薄いままなんですが、背中が明らかに大きくなっているんです。走り込んで下半身も鍛えたと思いますが、上半身の体幹をしっかりとして、身体が上に跳ねないよう、上半身でグッと押さえつけるような走りへと変化してたんです。

 会場では大迫選手を含め、ナイキのヴェイパー フライ4%を履いている選手が結構いましたが、彼だけ足音も違いました。他の選手がパスン、パスンという足音に対して、大迫選手はバコン、バコンというんです。腰高のまま地を這うように進んでいく様子は、まるで重戦車! こりゃあ、どえらいトレーニングをやってきているなと実感しました。このあたりのトレーニングへの取材は「Number Do」さんが多分やってくれていると思います(笑)。