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大迫傑がマラソン日本新を出せた「3つの深い理由」

EKIDEN Newsの細かすぎる陸上ガイド

2018/10/18
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日本新の理由3「“ノーマーク”だったこと」

 3つ目の理由は「ノーマークだったこと」です。

 シカゴマラソンは、シックスメジャーズ(マラソンの世界6大大会)のなかで唯一ナイキがスポンサーを務める大会です。アメリカでは、ナイキ・オレゴン・プロジェクトのトップ選手であり、アメリカのトップランナーであるゲーレン・ラップと、かつてナイキ・オレゴン・プロジェクトに所属していたモー・ファラーがどんな戦いを見せるのか、そこにケニア人がどう絡んでくるのか。あと、もうひとつボストンマラソンで、マラソン界のセレブの仲間入りをした川内優輝選手が加わって、現地マスコミの視線はラップとファラーと、川内選手に分散されていました。

©EKIDEN News

 一方、大迫選手はそれほど騒がれることなくレースに望むことができました。所属するナイキの大会ですから、オーガナイズもしっかりされていて、アメリカでトレーニングを続けてきた大迫選手にとっては、時差や移動による疲れもさほど感じずにノープレッシャーでスタートラインに立つことができたわけです。川内選手はレース前のゲン担ぎであるカレーを食べなきゃいけないですからね。ブレットさんとカレー屋さんを探し、無事に見つかって2杯食えたみたいですが(笑)。

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大迫が狙っていたものとは?

 最後に日本では日本記録更新が大きく騒がれていますが、大迫選手は「日本記録」だけじゃないものを狙っていたんじゃないかなと考えています。どんなに準備してきたとしてもマラソンのタイムというのは気候や条件によって左右されるもの。これはぼくの勝手な憶測ですが、今回のシカゴマラソンではオレゴンプロジェクトのマラソン部門でトップを走るゲーレン・ラップに勝つ。という動機もあったんじゃないかなと思うんです。

 ラップのベストタイムは2時間6分7秒。そして設楽悠太選手の元日本記録は2時間6分11秒。ラップに勝てば、記録はついてくる(ちなみにシカゴマラソンでのラップは2時間6分21秒)。ラップに先着することで、大迫傑がオレゴンプロジェクトのマラソン部門で1番になったことを、じかに全米の視聴者と、ナイキ本国の関係者にも見せつけたわけです。そして世界的にも非アフリカンのアジア人が悪コンディションの中、2時間5分台に突入したということはインパクトがあったはず。これで、2020年の東京オリンピックだけでなく、2021年ナイキのお膝元、オレゴンユージーンで行われる世界陸上でもこの2人に注目が集まるでしょう。俄然楽しみとなってきました。

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 清新JACで同級生の山野くんに戦いを挑み続けていた頃と、大迫選手の走りへの向き合い方は何ひとつ変わっていない。

 1億円の報奨金が出ましたが、こんな大迫選手ですから、きっと自分がさらに速くなるための環境づくりのために投資するのではないでしょうか。来年の東京マラソンでは、さらに進化した彼の走りを見に行きましょう!

写真/西本武司、駅伝マニア(EKIDEN News) 構成/モオ

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