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高橋 僕がこの映画でやった「実験」は、とにかくボロボロになってみようということ。特に立川志らくさんに落語を指導してもらうときに……。

川村 志らくさんって独特な落語家さんですよね。小説を書く前、山田洋次さんに紹介されてお会いしたのですが、普段はあまり喋らないし、人と目を合わせない。でも高座に上がった瞬間に、人格が変わってしまったかのように喋り出します。それが九十九の、普段は無口だけど、落語とお金についてだけはスラスラ喋れるというキャラクターのモデルにもなっているんです。

高橋 元気さんから九十九のモデルだと聞いたので、とにかく志らくさんの動作をよく観察しました。まばたきの回数が多いとか(笑)。

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川村 瞬間的にパパパパってまばたきしますよね。確かに映画の九十九もそうだった。

 

高橋 僕、志らくさんの目の前で初めて落語をしてみせるというとき、前もって一回も声に出して練習していかなかったんです。

川村 面白いね。落語は、とにかく師匠のやっていることを真似するのが基本的な覚え方なのに。

 

高橋 大学の落語研究会の方々にお会いして、壁に向かって練習する、という話も聞いていたのですが、全くやりませんでした。音で聞いて、文章で読んで、頭の中で反芻するだけ。そうやって一回、志らくさんの前で大恥をかいてみたらどうだろうと思ったんです。普段だったら完璧に準備していかないと気が済まないタイプなのですが……。

川村 どうでした?

高橋 いや、本当にズタボロでした。芝居でもあんな経験はないというぐらいひどかった。言葉に詰まって、汗がダラダラ出るし、恥ずかしさで自分でもわかるぐらい顔が赤くなるし、足も震えてくる。

川村 そうなりますよね。

高橋 ただ、最初に大恥をかいたおかげで、そこから一気に成長できたんです。おしりに火が付いた。クランクインがモロッコで、砂漠の上で落語をするシーンがあったのですが、そこにバッチリ間に合わせることができました。

文藝春秋11月号

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 白熱するふたりのトークは、撮影中、高橋氏が役柄に入り込みすぎて自己制御不能になってしまった秘話、「お金を持つと幸せになれるか」という問いへの回答、そして互いの祖母との思い出話にまで及んだ。全8ページにわたる特別対談の全容は、発売中の「文藝春秋」11月号に掲載されている。映画『億男』とあわせて要チェックだ。