トランプ政権には、何ら包括的な戦略などない、と目されていた。
貿易政策にも一貫した戦略が見られなかった。政権発足直後に「環太平洋経済連携協定(TPP)」から離脱したかと思うと、「北米自由貿易協定(NAFTA)」や「米韓自由貿易協定」の改定、さらに矢継ぎ早の関税引き上げで「米中貿易戦争」と一方的に政策を押し付けた。その目的は、米国内の雇用増といった保護貿易政策の一環とみられた。
中国を封じ込めるための「中国条項」
しかし、この数週間で初めて、一貫した戦略が姿を現した。「米中冷戦」の深刻化にともなって、自由貿易のネットワークから、異質な中国を排除する戦略である。
実は米政府は、9月末に妥結したメキシコ、カナダとの3カ国から成る、NAFTA改め「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の中に、中国を封じ込めるための「中国条項」を設定していたことが分かった。
米政府は、日米間で開始が決まった「日米物品貿易協定(TAG)」交渉や「米・欧州連合(EU)自由貿易協定(FTA)」交渉でも、同じように「中国条項」を組み込むよう要求する構えだ。
日本は、中国も参加して年内妥結も見込まれる「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」を積極的に推進しているが、トランプ政権が日本のRCEP参加に反対する可能性があり、安倍政権は難しい立場に立たされそうだ。
米議会レポートでは「中国」と明記
問題の「中国条項」とは、USMCA協定案(未批准)の32.10条「非市場国家とのFTA」のことだ。「中国」の国名は明記されておらず、「非市場国家」と規定されている。中国の市場は共産党独裁下の国家にコントロールされているという認識だ。
「中国条項」は、USMCA参加国、例えば対中貿易に肯定的とも伝えられるカナダが中国とFTAを締結すれば、3カ国のUSMCAは即廃棄、ということになる。
米議会調査局(CRS)が議員向けに配布したUSMCAに関するレポートでは、「非市場経済の国家(例えば中国)」とカッコ内に「中国」が明記されている。CRSのレポートはその上で、USMCAの「加盟国は、他の加盟国が非市場経済とされる国家とFTAを結べば、脱退することが認められる」と簡潔に説明している。
ロス米商務長官は「毒薬条項」だと指摘
協定案32.10条には、手続きなどについても詳しく書かれている。
第4項では、協定加盟国が非市場国とのFTAを結んだ場合、「他の加盟国は、6カ月前に通告して協定から離脱し、2カ国協定に移行することが認められる」としている。
このほか、加盟国は、非市場国とFTA交渉を開始する場合、その「3カ月以上前に、他の加盟国に通告する」義務があり、調印1カ月前までに他の加盟国に協定案本文、付属文書すべてを検討する機会を与えなければならない、としている。
ウィルバー・ロス米商務長官はこの条項について、ロイター通信とのインタビューで「毒薬条項」だと指摘、中国市場の開放、法律順守を実行させ、知的財産権を尊重させ、輸出補助金の慣行をやめさせるため、圧力をかけるのが目的だと述べている。
さらに、日本にとって問題なのは、ロス長官が日本およびEUとの貿易協定交渉でも、この「中国条項」を協定に盛り込みたいとの計画を明らかにしたことだ。