米国は「有志連合」の結成狙う
またラリー・クドロー米大統領補佐官(経済政策担当)は10月4日、「ワシントン経済クラブ」での演説で同じように、日本、EUとの交渉でも、USMCA協定と同じやり方を踏襲する戦略を明らかにした。
クドロー補佐官は、「中国条項」を同盟諸国などに拡大することによって、中国と対決する「貿易有志連合」を形成する、としている。「反中国」の新冷戦では、イラク戦争と同じように「有志連合」を形成するということだろう。
実は、9月26日の日米首脳会談後に発表された日米共同声明でも、中国に対する強い態度が表明された。
共同声明第6項は、「第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する」と明記、さらに中国「国有企業」の不公正な貿易慣行に対する強い警戒感も示したのだ。
その約2週間後に日本は、安倍首相が10月25日から訪中し、習近平国家主席と首脳会談を行う予定を発表した。中国は対米関係の悪化にともなって、日本に接近しており、RCEPの妥結に向けて、日中合意を図る構えといわれる。
しかし、トランプ政権が明確に「中国条項」を提示して中国排除に動き出したため、安倍政権は米中の挟み撃ちに遭う可能性が高まってきた。
トランプ大統領のゴリ押し外交が予想されるが……
一つの疑問は、「中国条項」が多国間協定のRCEPに適用され得るかどうか、という法的な問題だ。日本側は中国だけとの協定ではないと主張して、米側の要求をかわすことも考えられる。
先の日米首脳会談で、日本側は日米FTAの交渉を拒否し、物品貿易協定という日米間では新しい形態の取り決めを逆提案して、米側の同意を得た。
日本側は農産品や工業製品の関税に限定して交渉するという立場だが、すでにスティーブン・ムニューシン財務長官は「為替条項」の導入を求める考えを明らかにした。米側は今後も、先の日米共同声明の拡大解釈を続けるとみられる。
そもそも、自由貿易の世界的なネットワークから中国を排除して、封じ込める戦略なら、なぜTPPに参加しなかったのか、と反論したくもなる。オバマ前米大統領はそうした立場からTPPの基本合意を達成した。
しかし、トランプ大統領はこうした過去の大統領の成果をすべて否定して、自分の新たな業績で改めることを繰り返してきた。
日米物品貿易協定交渉については、「自動車への追加関税がなければ、交渉に応じなかった」と述べ、日本から輸入する自動車に対する追加関税を課すと「脅し」の材料にして、日本側を2国間交渉に引き込んだことを自賛している。
恐らく、RCEPにしても、「中国条項」にしても、トランプ大統領はゴリ押しの外交で米国の主張を通そうとするだろう。
10月25日からの訪中で、米中を相手にした安倍首相の二正面外交が本格化する。日米同盟に米中冷戦が交錯する新時代の幕開けだ。