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ウチの路線はJRさんと並行していますから……

――クロスシートの車両は首都圏では珍しいですし、最近流行りの有料着席電車も京急さんは1992年から「ウィング号」として走らせているなど、「わが道をゆく」という印象はありますね。

櫻井 独自性を出そうとしてこうなったわけじゃないと思うんです。ウチの路線はJRさんと並行していますから、もう昔からずっと競争の中でやってきました。JRさんは東海道線に横須賀線、京浜東北線と走っているところ、ウチは上り下りの線路2本だけですから、普通にやっては太刀打ちできない。そこで安全面の一層の向上だとか、ダイヤ乱れへの対応力向上を意識してきた結果、独自性が生まれてきたというところじゃないでしょうか。まあ、それでもJRさんにはそうそう太刀打ちできないんですけど(笑)。

首都圏では珍しい、京急の「クロスシート車両」

現場の駅係員から「次は何をやるんだ?」

――なるほど、JRとの競争の中で培われてきた京急さんの鉄道の“個性”が、他の分野にも波及して新たなアイデアが生み出される社風が形作られたということなのでしょうか。

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櫻井 だから現場の駅係員とかも抵抗なく受け入れてくれているし、むしろ楽しんでます。「次は何をやるんだ」「こういうのはどうだ」と突き上げがくるんですから。「京急かぁまたたたたーっ駅」は、ウチの女性社員が提案したんです。「『北斗の拳』ならかぁまたたたたーっ駅にしたらいいんじゃないですか?」って何気なく。でも聞いたら本人は『北斗の拳』は読んだことがなくて、知っているのは「あたたたたたた」と「お前はもう死んでいる」だけだった(笑)。でもこういうアイデアがどんどん生まれるというのは、ウチの会社らしさなんじゃないでしょうか。それに、こうしたチャレンジをしていくことは、安全の面でもプラスがあるんではないかと最近思っているんです。

©鼠入昌史

――それはどういう?

櫻井 より現場と本社のコミュニケーションが活発になって風通しがよくなりますよね。遠慮なくいろんな部署と意見交換ができることは、間違いなく安全にプラスです。さらに「キャンペーンで話題になっているから下手なことはできないぞ」と意識を高めることにもつながっていくはず。もちろん我々も現場の社員が期待しているわけですから、下手な企画はできないんですけど(笑)。最初からそういう目的でやっているわけではないですが、結果としていろんなおもしろいことをやっていくことが、安全にもいい影響を与える。沿線の方々にも喜んでいただける。そうなることが、一番じゃないでしょうか。

 今年で創立120周年を迎えた京急電鉄。その鉄道会社らしからぬ“柔らかさ”は、JRとの競争の中で培われた独自性、そしてそこから広がったチャレンジ精神に秘密があった。果たして、駅名はどのように変わるのか。そしてこれからはどんな斬新なキャンペーンをやってくれるのか。鉄道ファンならずとも、京急電鉄から目が離せない。