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殺した「敵」は26人、殺した「味方」は40人!

『新選組 粛清の組織論』 (菊地明 著)

2016/05/18

genre : エンタメ, 読書

note

書かれざる「粛清されたリーダーたち」

近藤勇

 新選組というと、やっぱり近藤勇・土方歳三・沖田総司という江戸の試衛館道場からの面々が人気です。私も、これまでほとんど彼ら「人気メンバー」を中心に書いてきました。

 ただ、今回は敢えて「粛清された組織内の敗者」にスポットを当てて、いつもと違う角度から描いてみたつもりです。中でも大幹部なのに粛清された芹沢鴨、山南敬助、伊東甲子太郎をメインキャストに据えています。

土方歳三

 近藤・土方に視点を置いてしまうと、どうしても彼らは悪者扱いされがちです。そのイメージを取り払うことで、新しい新選組像も見えてくると思ったのです。研究を始めて40年ほど経ちますが、芹沢の出自については改めて調べてみました。伊東も結構まじめに隊務に励んでいたことが分かります。この本は、いわば「正史」をひっくり返すたくらみでもあるんですよ。

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組織論として読む新選組

 私はなるべく私見を入れずに「史料に語らせる」スタイルで本を書いてきました。今回もそこは変わりませんが、各章ごとにテーマを設けることによって、組織論としても面白く読めるよう工夫しています。

 幕末は時の流れとともに思想も激しく移り変わっていて、攘夷に対する考え方や幕府との距離について、隊内でもスタンスの違いが明確化していきます。それが内部抗争の火種になり、粛清が繰り返されることになるわけです。

 でも、こういった組織内の対立や分裂というのは幕末に限ったことではなく、現代の組織にも言える話なのではないでしょうか。創業者から二代目へ、そして拡大とともに血縁経営から組織体へと変化していく――企業に例えてみても面白いかもしれません。

新しい新選組像を求めて

 新選組の拡大を夢見たリーダーの近藤は、粛清した御陵衛士(伊東甲子太郎のグループ)残党によって右肩を撃たれて剣士生命を失います。そして「大久保大和」の名前で新政府軍に出頭すると、板橋の処刑場でも御陵衛士残党に正体を見破られ、斬首へと追いこまれます。粛清の因果によって新選組は滅びてしまった、という見方もできるのではないでしょうか。

 こうして新しい新選組像を書いてみて、自分自身にも新鮮な気持が芽生えました。新選組はライフワークのようなものなので、もう距離が近すぎちゃって、皆さんが何を知っていて何を知らないのか分からなくなっちゃうんですよね(笑)。5月7日には久しぶりに土方歳三忌にお邪魔して、ファンの方々と熱気を共有してきました。読者の皆様にも新しい新選組像をお届けできたら幸いです。

菊地明

菊地 明

1951年東京都生まれ。幕末史研究家。日本大学芸術学部卒業。新選組研究の第一人者として知られ、資料を丹念に読み解くスタイルに定評がある。2012年からは「新選組検定」の監修もつとめるなど幅広く活躍。主な著書に、新選組の活動記録をまとめた『新選組全史 上中下』(新人物往来社)のほか、『新選組一番組長 沖田総司の生涯』『新選組謎解き散歩』(以上、新人物文庫)、『新選組組長 斎藤一』『新選組謎とき88話』(以上、PHPエディターズ・グループ)、『「幕末」に殺された女たち』(ちくま文庫)など多数。

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