1ページ目から読む
2/3ページ目

皮膚と垢の関係を“タマネギ”にたとえると……

 かつて筆者は小欄で「本当は危険な『耳かき』の快楽」について書いたことがある。耳垢には耳の表面を守り保湿する働きがあるし、耳を掻き過ぎると炎症を起こして余計痒くなる。気持ちいいからといって耳かきをし過ぎるのはよくない――という記事だ。

 耳垢でさえ保湿作用という機能を持つというのだ。いわんや皮膚の垢においてをや、ということだ。

「皮膚の表皮にある基底細胞が分裂を繰り返し、死んだ細胞がどんどん上(表面)に押しやられて堆積したものが垢です。つまり皮膚の細胞の死体のようなものなのですが、これはこれで保湿という役割を担っている。垢には本来粘性がないので、皮膚が乾燥していると粉を吹いたように落ちてしまいます。でも、人の体はうまくできていて、皮脂という脂分が分泌することで垢が落ちない仕組みになっている。ただ、皮脂の分泌量は加齢とともに低下します。高齢になればなるほど肌も乾燥しやすくなるのは、そんな理由があるのです」

ADVERTISEMENT

 北條医師は、皮膚と垢の関係を“タマネギ”にたとえて説明してくれた。

「八百屋やスーパーの店頭で売られているタマネギの表面には茶色い皮が付いています。この皮は美味くもなく、煮ても焼いても食べられないし、料理する時には最初に剥いて捨てられてしまう存在です。でも、だからと言って、これを剥いた状態で放置すると、あっという間にタマネギはみずみずしさを失っていく。人間の肌における垢は、まさにタマネギにおける茶色い皮と同じ役割を担っているわけです」

©iStock.com

垢そのものは無臭だ

 適度に入浴をしていれば、皮膚の表面に垢があっても目で見て「汚れ」と認識されることもない。

 しかも、垢そのものは無臭だ。夏場などに異臭を放っている人に出くわすことがあるが、北條医師によるとあれは垢の臭いではなく、汗にばい菌が反応して起きる臭いとのこと。汗と汚れさえお湯で流しておけば、あのような臭いを発することはないというのだ。

 それどころか北條医師は、こんなことまで話してくれた。

「垢で皮膚の細胞が守られているから、例えばお風呂に入っていないホームレスの人でも皮膚病ができることは滅多にありません。救急外来に彼らが運ばれてくると、院内のシャワーを浴びてもらうことがあるのですが、洗浄のあとはつるんつるんのきれいな肌が出てくるんです。もちろん不潔にすればいいというものではないけれど、毎日入浴して、お湯で全身を洗い流していれば十分に清潔を保てます。必要以上に垢を落とすことはない、ということです」

 そう語る北條医師は、さらに衝撃的なことを口にした。

「洗髪の時のシャンプーも、本当は必要ないんです」

©iStock.com

 皮膚の汚れがそうであるように、髪の汚れもお湯で洗い流すだけで充分だというのだ。

 シャンプーで泡立てないと髪を洗った気分になれないような気もするが、北條医師によればそれは気のせいで、シャワーのお湯をかけながら指先で髪をもしゃもしゃすれば、十分に髪と頭皮の汚れは落ちていくという。

「フケを気にして洗髪を繰り返している人に、シャンプーを使うのをやめるようにアドバイスすると、不思議なほどフケが止まる。最初のうちは何となくべたつくような気がするかもしれませんが、すぐに馴れます」