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各紙は「自己責任」をどう報じたか? “2004年の安田さん”と“2018年の安田さん”

14年前の「安田さん解放」と読み比べてみると

2018/11/09
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「人質の家族」「PTSD」「メディアスクラム」

「人質の家族」については、安田氏より先に拘束された3人はもっと熾烈だった。

 3名が帰国したときの見出しが「沈黙の帰国 機中は厳戒態勢 うつむいたまま」(2004年4月19朝日新聞)

 これだけでもまったく「解放されてよかった」というムードが無いことがわかる。

 気になるのは「医師『情緒が不安定』」という小見出し。

《高遠菜穂子さんは「かなり感情の起伏が激しくなっている」と弟の修一さんが説明した。医師から「当時のことを思い出させないように」と言われているため、なるべく世間話をしているが、その最中にも泣き出すことがあるという。ドバイを出発するときに、カメラのフラッシュに足がすくんで歩けなくなったという」(2004年4月19 朝日新聞)

「PTSD」「メディアスクラム」という言葉が浮かぶ。

安田氏が書いたメッセージ ©︎AFLO

 ほかの二人の様子も「何か落ち着かない。手を握ってみたら、震えがあった」(郡山さんの母)とか、「ぼくと話をしていても、涙を浮かべることがあった」(今井さん兄)という状態。

 これらは7日間の人質生活の恐怖から発生したのだろうが、自分たちや家族への中傷も原因にあると考えるのが自然だ。

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「他人の自己責任を責める」という不思議な現象

 紙面には識者の声として橋爪大三郎氏と斎藤貴男氏のコメントが載っていた。

《マスコミが感情的に家族を追いかけすぎた。家族たちが救出してほしい思いで、感情的発言をするのはやむを得ない。それを大きく取り上げたマスコミが答えがほしくて帰国を待ち受け、さらに3人を混乱させたのではないか》《3人は、日本国内で家族が中傷されていたことを聞いて、かなりストレスを感じたはずだ》(橋爪大三郎 東京工大教授・社会学)

《多くの人が日ごろの不満を、お上(政府)に従順でない人にぶつけて精神を安定させたのではないか》(斎藤貴男・フリージャーナリスト)

 2004年の斎藤貴男氏のコメントにハッとする。SNSがある今はさらに強い言葉は目立つ。「他人の自己責任を責める」という不思議な現象は2018年も続いている。