初の全国タイトルを獲得できた理由
一気に成長を見せたのは今年に入ってからだ。6月の日本学生個人選手権5000mで優勝して初の全国タイトルを獲得すると、9月の日本インカレでも5000m、1万mの両種目で5位入賞。名実ともに日本学生界のトップランナーに上り詰めた。その理由を尋ねると、意外な答えが返って来た。
「練習面で言えば正直、去年までとあんまり変わっていないんです。ただ、気持ちの面が大きく変わりました。去年くらいから全国レベルの大会で入賞したり、ちょっとずつですが記録も残せるようになってきた。これまでは今回みたいな大きな大会で区間賞を獲ることなんて、『絶対にできない』と思っていたんです。それが少しずつできる範囲のことに見えてきた。そのチャンスをしっかりつかもうという気持ちが自分の中でとても大きくなってきていました。それがきっかけです」
そんな意識を育む端緒には、同じ大学で練習を積む選手たちの存在が大きな影響を与えてくれたのだという。
「短距離では多田(修平/4年)さんが世界を舞台にしてメダルを獲って活躍されていた。あとは中距離でも花村(拓人/3年)が日本のトップクラスで戦っている。そういう姿を目の当たりにすると、同じチームで戦っている想いもあるし、『自分もできるんじゃないか』という自信というか、希望になるんです。それはすごく大きいです」
これまで関東勢以外の選手は、トラックでのタイムはもっていても、実際の駅伝では活躍できないケースが多く目についた。
もちろん関東の強豪校のほとんどが駅伝にターゲットを合わせてきている事情もあるが、それ以上に名門高校から強豪大学に進学した有力ランナーたちに「名前負け」していた部分も大きいように思う。
来年こそは関学として、またこの舞台に
種目は違えど世界や日本のトップをフィールドに戦うチームメイトの存在が、その「思考の枷」を取り払ってくれたことが、今回の激走に繋がったのではないだろうか。
石井は今回の自分の走りで、少しでもチームメイトの自信にもつながればと考えている。
「チームのみんなからも、『お前が全国レベルで頑張っているんだから、自分も頑張るわ』という声もよく聞くんです。そういう意味で刺激は与えられていると思うので、来年こそは関学として、またこの舞台に戻ってきたいですね」
終わってみれば今年の全日本も、上位の15校はすべて関東勢に占められた。だが、石井の魂の走りは、きっと関学のチームメイトにも何かを残しただろう。ほんの少し意識が変われば、若い学生ランナーたちの可能性は無限大だ。それは強豪校であってもなくても、同じことだ。
石井の例は、自分の限界に蓋をしないことの重要性を顕著に示しているように思う。来年の伊勢路こそは、関東勢を倒すチームがでてくるだろうか。