「学連選抜というのは特別なチームなんです。それぞれが出られない自校の選手の想いも背負っている。その想いをぶつける走りができたと思います」

 11月4日に名古屋・熱田神宮から三重の伊勢神宮までのコースで行われた全日本大学駅伝。年明けの箱根駅伝を占う上でも重要なこの大会は、今年も多くの駅伝ファンの注目を集めていた。

最後は強烈なスパートでライバル校をぶっちぎる

 結果は、王者・青山学院大学の完勝。

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 先行する東海大、追いかけてくる東洋大らのライバルチームを余裕を持って一蹴すると、史上初となる2度目の「学生駅伝三冠」に向けて王手をかけた。

 一方で、個人的に最も印象に残った場面は別にあった。それは青学大のゴールの瞬間でもなく、首位交代の場面でもない。1区で日本学連選抜チームの石井優樹(関西学院大学)が区間賞を獲った瞬間だった。

 序盤は集団の中で機をうかがうと、青学・小野田勇次の仕掛けに冷静に対応。最後は強烈なスパートで関東のライバル校をぶっちぎると、最初に中継点へと飛び込んだ。襷渡しを終えると左手で大きくガッツポーズを作り、レース後には冒頭のように、胸に秘めたプライドを露わにした。

「小野田さんがペースを上げた時に見逃さず、しっかり対応できたのが良かったですね。集団の中に取り残されずに、すぐに反応したのが正解でした。関東の選手はロードに強いし、こんなペース走のままで行くわけはないと思っていて、絶対、どこかで仕掛けて来るだろうと。ラストスパートには自信があったので、そこの判断が上手くハマった感じです」

 そう会心の走りを語る石井だが、選抜チームによる区間賞獲得は50回の大会の歴史の中でも史上初。学連選抜チームはオープン参加になるため、テレビ中継のテロップでも2番手通過のチームが首位として表示される不思議な事態も起きた。

全日本大学駅伝1区、中継所前でラストスパートする日本学連選抜の石井優樹(右から2人目) ©時事通信社

全国的にも勝負できる存在になるしかない

 石井の区間賞に価値がある理由のひとつに、彼が関西の大学に所属していることも挙げられる。周知のように、いまの大学駅伝界には箱根駅伝という超強力なコンテンツがある。そのため、有力な高校生はほとんどが関東の強豪校に進学する。「全日本大学駅伝」と銘打ってはいても、近年はどの区間でも上位を関東の大学の選手が占めるのが常だったわけだ。石井の区間賞はそんな状況に風穴を開ける、大きな可能性を秘めたものだった。

「区間賞の可能性はある、ということは監督からも言われていました。今回の全日本は、関学は関西予選4番手で落ちてしまっていたので、やっぱり自分の大学をエースとして伊勢路に連れてこられなかった責任も感じていて。もっとチームを引っ張れる存在にならないといけないな、と。自分が諦めてしまったら、チームの歩みも止まってしまう。エースとして全国的にも勝負できる存在になるしかない。常に前を狙って走るんだという気持ちは念頭にありました」

 監督の言葉からもわかるように、もともと石井は実力者だ。中高時代から全国大会の常連でもあり、現在関東の大学で戦う選手たちとも切磋琢磨していた。ただ、当時は全国レベルの大会での優勝や入賞経験はなかった。それもあって本人は「出身の大阪にも自分より速い選手はいたし、関東の大学だと試合で走れる機会も減るかと思って」地元・関西の大学への進学を選んだ。